スーパーカーの定義より先に子どもたちの心に突き刺さった
1970年代中ごろ、子どもたちの周りにあるさまざまなモノがクルマ関連グッズと化した空前絶後の「スーパーカーブーム」。当時の子どもたちを熱狂させた名車の数々を振り返るとともに、今もし買うならいくらなのか? 最近のオークション相場をチェック。今回はラグジュアリーなグランドツアラーとして生まれながらも日本でスーパーカー少年の心を鷲づかみにした、ポルシェ「928」です。
FRレイアウトにV8エンジンを搭載した新世代ポルシェ
いつの時代にも「ポルシェといえばリアエンジン/リアドライブの“911”シリーズ!」というイメージが強いが、スーパーカーブーム全盛時は少し様相が異なった。ミッドシップの「914」やフロントエンジン/リアドライブの「924」および「928」も子どもたちから注目されていたのだ。
911シリーズに代わるモデルとなることを期待され、1975年に登場したのが水冷直列4気筒エンジンを積む924だが、ポルシェの意に反して主力車種とはならなかった。そして924に続く、新世代ポルシェの第2弾として1977年にデビューした928もポスト911にはなれなかったが、こちらはV8エンジンを積んでいたので、パワーユニットのスペック的にはスーパーカーとしての資質を十分満たしていた。そのため、クルマ好きの少年たちは924の兄貴分である928に対して熱い眼差しを向けたのだ。
プロポーションだけで速さを感じさせた
911シリーズよりも上級のマーケットをターゲットとしていた928は、ポルシェ的にはスーパーカーというよりもラグジュアリーなグランドツーリングカーであった。全方位的に快適性が重視されており、発売当初からAT仕様を用意。車両本体価格は911シリーズよりも高額で、新開発された水冷V型8気筒エンジンの排気量は初期モデルですら4.5Lもあった(最終的に5.4Lまで拡大)。
928の丸みを帯びたフロントセクションは、ランボルギーニ「ミウラ」のようなデザインの電動ポップアップヘッドライトを装備。大型のウインドウがあるリア側も、フロントと同じようなアールでこれまた丸みを帯びていた。スーパーカーブーム全盛時に筆者が読んだ自動車専門誌に「突起物のないボディは、それだけで速さを感じさせる」と記されていたが、他のクルマとは明らかに異なるプロポーションの928は、ポルシェというメーカーのスゴさを子どもたちにストレートに伝えるものだった。
トランスアクスルにヴァイザッハアクスル、走りも本気だった
70年代の子どもたちは「次世代を担うグランドツーリングカーとして、パワフルな水冷V型8気筒エンジンを積み、いかにも空力特性がよさそうな丸みを帯びたボディを採用していた」ことぐらいにしか着目しなかった。だが、928はFRレイアウトであっても前後の重量配分にこだわって設計されており、トランスミッションとデフを一体にしてリアアクスル側に搭載するトランスアクスル方式を採用。
普通のドライバーにとって操縦しやすいクルマを提供するために開発されたヴァイザッハアクスルも装備していた。じつは走りもよかったのだ。
最初期モデルがオークションで800万円はお買い得かも?
928は911シリーズの代わりにはなれなかったが、その進化が結実した928GTSが1992年にリリースされ、1995年までのロングセラーとなったので、売り物がたくさん流通している。
とはいえ、さすがに初期モデルは少ないが、2022年5月にRMサザビーズが開催した「MONACO」オークションでは1977年式ポルシェ928が5万9800ユーロ(当時レートで邦貨換算約800万円)で落札されている。リアスポイラーのない丸みを帯びたリアエンドは初期928ならではの特徴で、現車は工場出荷時のエンジンおよびギアボックスがそのまま使用されているとのこと。稀少性とともに歴史的価値も高い1台だといえるだろう。
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