意外とラインナップにないBMWの商用バン
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「BMWにバンがない理由」です。メルセデス・ベンツには「Vクラス」、国産ではトヨタ「ハイエース」や日産「キャラバン」があり、海外にも大小さまざまなバンがあります。しかし、BMWにはそのようなモデルはありません。それには理由があったのです。
ビジネスシーンで活躍すること間違いなしなのになぜ?
BMWでレースなどやっていると、身のまわりはBMWで溢れる。「M4」や「M3」でサーキットにやってくるドライバーは少なくはないし、スポンサーやチームの幹部は「7シリーズ」や「X7」でうやうやしくやってきます。業者も同様にBMWへの愛情が強いから、積載能力の高いツーリングを愛車にしているようですね。
ですが、ふと不思議に思ったことがあります。BMWには、商用車のバンがないのです。日産「キャラバン」やトヨタ「ハイエース」、メルセデス・ベンツで言えば「Vクラス」。背が高く、荷物を満載して、西だ東だと駆け回るバンがないという不思議に気がついたのです。
だから仕方がなく、わがBMWチームスタディのメカさんは、メルセデスのグリルをキドニーに加工して乗っています。苦肉の策なわけですね。
BMWがバンを生産しない理由を聞くと、こんな痛快な回答が得られました。なんと、BMWは、バンでは理想のクルマにならないからだというのです。諸説ありありですが、BMWに注ぐ愛情が深いとある関係者がそう言っていたので、信じることにしました。
BMWのクルマづくりの理想はバンでは具現化できない!
BMWが掲げるタグラインはこれです。
「駆け抜ける歓び」「Freude am Fahren」
言わずと知れたBMWのカンパニーキャッチです。このコピーはじつに秀逸で、BMWの哲学を短い言葉で表しています。前後重量配分50:50にこだわり、後輪駆動を基本とする。さすがに時代の変化には抗えず、50:50もFR駆動にも例外はあるのですが、それでも、走りの気持ち良さを失うことはないのです。それはもう情熱を超えて執念と呼んでもいいでしょう。
つまり、バンでは駆け抜ける歓びを表現できない。それがBMWがバンを生産しない理由らしいのです。
全世界にBMW販売店があり、ショップがあり、BMWファンがいます。BMW製のバンを発売すればそれなりの台数が見込めると思うのですが、魂は売れないというわけですね。その頑固さがBMWのキャラクターを明確にしているのでしょう。
ちなみに、ミュンヘンのBMW生産工場の敷地では、VW製のバンが忙しそうに稼働していました。
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