待望のe-POWERが満を持して発売
ファミリー層に人気のミニバンである日産「セレナ」は、2022年11月にフルモデルチェンジを発表。そしてエンジンで発電しモーターで駆動する「e-POWER」搭載車が、ガソリン車に遅れて2023年4月に発売された。受注の半数がe-POWERだという注目モデルに、モータージャーナリストの青山尚暉氏が試乗した。
プラットフォームは先代からキャリーオーバーでも大幅進化
6代目となる日産新型セレナは、2022年11月に発表され、ガソリン車は翌12月に発売された。このMクラスボックス型ファミリーミニバン定番であるセレナに、2023年4月、待望のe-POWERモデルが加わり、発売がスタートした。これで国産Mクラスボックス型ミニバン──トヨタ「ノア」&「ヴォクシー」、ホンダ「ステップワゴン」とともに最新型3車が出揃ったことになる。
ここでは新型セレナの「ハイウェイスターV」、および最上級グレードとなる、プロパイロット2.0を搭載する「ルキシオン」の試乗記をお届けする。
その前に、新型セレナの概要を説明すると、プラットフォームは先代からのキャリーオーバー(ホイールベースは10mm延長)。と聞くと、ビッグマイナーチェンジモデルなのかっ!? と思うかもしれないが、中身の進化はズバリ、ハンパじゃない。
まずは、先代同様に運転席からのサイドの視界を良好にするフロントサイドウインドウ下端のシュプールラインや、車体後方にスペースがない場所でもラゲッジルームの荷物を出し入れしやすいデュアルバックドアを持つエクステリア。ハイウェイスターは例によって3ナンバーサイズを継承するものの、全長は先代とほぼ同じとなり(旧:4770mm→新:4765mm)、車幅は先代の1740mmより狭い1715mm。
車幅が狭くなった理由は先代のいかにも後付けした感が強く出っ張ったサイドシルプロテクターをボディと一体化し、かつタイヤとツライチ化したことで1715mmとしている。ちなみにガソリン車のXV/Xは全幅1695mmの5ナンバーサイズだが、このハイウェイスターもミラー・トゥ・ミラー間の距離は同じ。車幅による駐車性、扱いやすさは5ナンバーモデル同様ということになる。
顔つきは大きく変わった。とくにハイウェイスターは3連LEDヘッドライト、大型Vモーショングリルで迫力満点。Mクラスボックス型ミニバンとしての高級感を高めることに一躍買っている。ただし、ヴォクシーほどの「ワルっぽさ」がないところがセレナらしさでもある。
3列目の居住性も大幅に向上した
一方、先代に対してフロアや室内空間は大きく変わってはいない。ただし、e-POWERルキシオンを除くグレードに採用されたキャプテン、ベンチシート自在の2列目席のスライド量は−50mmとなった。理由は3列目席膝まわり空間のゆとりの確保。それでも身長172cmの筆者のドライビングポジション基準で、2列目席膝まわり空間は先代の360mmから410mm(標準スライド時)に広がったとともに、3列目席最小膝まわり空間は先代の45mm~に対して120mm~(2列目席スライド位置による)まで拡大。3列目席の居住性が向上したと言っていい。
そうそう、先代e-POWERモデルにのみ未採用だった、セレナ自慢のスマートマルチセンターシート(1-2列目席間を前後に移動でき、2列目席ベンチシート化の役割も担う)は、形状の見直しで新型はe-POWERモデル(ルキシオンを除く)にも採用された。
e-POWER専用エンジンを開発し運動性能を向上
パワーユニットは、ガソリン車が先代モデルの改良版であるのに対して、100%電動駆動となるハイブリッドのe-POWERは一新され、発電に徹するエンジンは先代の1.2Lから、HR14DDeと呼ばれる第2世代e-POWER専用設計の1.4Lエンジンに刷新。
発電用エンジンは先代の84ps/10.5kgmから96ps/12.5kgmとなり、EM57と呼ばれるモーターも95ps/32.6kgmから163ps/32.1kgmへと、大幅にパワーアップ。なお、ハイウェイスターのタイヤは先代の195/65R16から205/65R16にサイズアップしている。これは乗員1人あたりの体重要件が以前の55kgから75kgに増えたことによる。
未来感のあるインパネは運転しやすい視界を確保
さて、新型セレナのe-POWERハイウェイスターVに乗り込めば、新型らしさは一目瞭然。メーターパネルはフードレスのタブレットのような大型液晶メーターとなり、その横に大型液晶のセンターディスプレイ(純正ナビ)が並び、電気自動車の「アリア」を思わせる先進感が演出されている。
それだけでなく、シフターも一新。左からP-R-N-D/Bと並ぶプッシュボタン式電制シフトを採用しているのだ。前後に動かすシフターに慣れた身では最初は戸惑うかもしれないが、新型セレナ1台の所有であれば、すぐに慣れるはずである。
また、全方向の視界も向上。前方、斜め前方が大きなフロントウインドウによってパノラミックであることはもちろん、とくにデュアルバックドア下端が先代より低くなっていることも、後方視界においてそう感じさせる一因だ。
しっかりとした走りが好印象
ガソリン車よりフロントで約80kg、リアで約20kg重くなるためe-POWER専用の足まわりを持つe-POWERハイウェイスターV。もちろん走り出しはモーター走行。電動感の極めて強いドライブフィールを味わわせてくれる。パワーステアリングは極めて軽く、切る、戻すどちらの方向もスムーズでスッキリ。これなら運転初心者、細腕女子でもスイスイと走り始められるはずだし、熟練ドライバーなら「ステアリングフィールの軽さが気持ちいい」という印象を持てるに違いない。
ここだけの話、贅沢なデュアルピニオン式パワーステアリングのラックマウントは、世界のコンパクトカーのベンチマークであり続けている、歴代ゴルフの超完成形、専門家からも最良の世代と言われているVWゴルフ7をベンチマーク(フロントサスも)にしているのだそうだ。
加速性能はモーターパワーの増強が功を奏し、とにかくスムーズで力強い。先代はガソリン車のほうがパワフルに感じられる場面もあったのだが、この新型では、ガソリン車の試乗経験からすれば、e-POWERモデルのほうが圧倒的に速い印象となる。
先代と違い、e-POWERもルキシオンを除いて8人乗りになったのだから、これは嬉しい進化である。ただしそれは、運転中に操作しにくい部分にあると思える(ステアリングの右下のスイッチが集中しているところにある)ドライブモードがエコ以外の場合だ。
エコモードにセットすると、アクセルレスポンスと加速力が極端に穏やかになり、幼児やペットを乗せているときにはむしろ好都合ながら、キビキビと走りたいときには不向き。一方、スポーツモードにセットすると、上記の速さ、つまり、アクセルレスポンスの高まりとパワフルでスムーズな加速力が高まる。これにより右足が駆動モーターと直結しているかのような、100%電動駆動車感をより強く、存分に味わうことができるのである。
乗り心地はしっかり感と快適さのバランスが見事。先代よりちょっと硬めの印象もあるものの、荒れた路面や段差などでの不快なショックや振動は抑え込まれ、うねり路の通過を含む足まわりの収束性はなかなかのもの。
ボックス型ミニバンは背の高さが特徴で、新型セレナの場合は1870mmもある。よって操縦安定性と乗り心地のバランスを取るのは極めて難しい開発作業になるわけだが、ここはプラットフォームのキャリーオーバー=熟成がむしろプラスに働いていると言っていい。
操縦性はステアリングの応答性が穏やかながらリニアで、狙い通りのラインを取りやすい。それはあらゆる走行シーンでのクルマとの一体感ある運転のしやすさに直結する。だが、ライバルに対して依然、フロアと重心が高いため、カーブでの傾きは小さいとは言えない。気持ちよくカーブに飛び込む、素早く高速レーンチェンジを行う……といった場面ではフロントシートのサイドサポートも重視されていないため、乗員の上半身の左右への動きは少なくない。
とはいえ、4輪のタイヤがしっかりと路面を捉える安定感が担保されているから、運転初心者はもちろん、運転熟練者が軽快に走らせても安心・安全で、走りが思いのほか気持ちいいのである(ミニバンに同乗者を乗せている時はジェントルな運転に徹しましょう)。普通に走る限り、頭の動きを制御してくれる配慮があるため、クルマ酔いのしにくさも売りのひとつとなっている。
ミニバンの室内空間に求められる快適性のポイントのひとつが静粛性だ。新型セレナはこの点でも文句なしである。ボックス型ボディのウィークポイントとなる「こもり音」のなさはもちろん、とくにロードノイズの遮断性能ではクラスベスト(e-POWERハイウェイスターV)と言っていいほどだ。さらに、エンジンを回したときのノイズレベルの低さもクラスベスト。これはライバルとは違い、e-POWERのエンジンが発電専用となるところも大きいはずだ。
高い操縦安定性の実現にはプロパイロット2.0も好影響
ところで、e-POWERハイウェイスターが先代を圧倒する高い操縦安定性が実現できたのには、ちょっとした「秘密」がある。日産は先代比でサスペンション剛性50%アップ、ロール剛性20%アップ、コーナーの安定感23%アップを主張しているが、その背景には、新型セレナの最上級グレードとして、プロパイロット2.0を搭載するルキシオンがラインナップされることにある。どういうことか?
ルキシオンに標準装備されるプロパイロット2.0は高精度地図データと360度周囲センシングによって同一車線内のハンズオフを可能とし、ドライバーの運転操作を幅広くサポートしてくれる。同時に前方車の速度に応じて、システムが追い越しを提案し実現。ハンドルに手を添えスイッチを押すだけで車線変更を支援してくれるなど、極めて高精度な走行を行うため、車両の操縦性や安定感もハイレベルなものが要求されるのだ。そのハイレベルな走行性能が、ハンズオフができないプロパイロットを搭載するe-POWERハイウェイスターVにも備わっているということである。
ちなみにベースとなるe-POWER XV/Xに対し、フロントグリル(の下部)がより精悍になり、16インチホイールのデザインが異なり、インテリアと装備も一段と豪華になる最上級グレードのルキシオン。その走行性能は、基本的なところはe-POWERハイウェイスターVと同一ながら、装着されるタイヤ銘柄は同サイズの上記のプロパイロット2.0対応専用タイヤ(ブリヂストン・トランザ。ハイウェイスターの試乗車はダンロップ・エナセーブ)となるため、乗り心地はやや硬めになり、ロードノイズもわずかとはいえ、目立つようになる……。
* * *
いずれにしても、新型セレナは見た目以上に中身の進化が著しい。とくにe-POWERハイウェイスターVはファミリーミニバンに何が必要かのツボを見事に押さえた会心作といっていいだろう。ただ、プロパイロット2.0搭載のルキシオングレードの価格は479万8200円と、e-POWERもプロパイロットも持たない日産のフラッグシップミニバン「エルグランド」250ハイウェイスタープレミアムの479万7100円と同等になってしまうのだが……。
AMWでは新型セレナについて、このあとパッケージ、車中泊対応、ペットの乗車対応、ライバル比較などについてのレポートを予定している。
●NISSAN SERENA e-POWER LUXION
日産セレナe-POWERルキシオン
・車両価格(消費税込):479万8200円
・全長:4765mm
・全幅:1715mm
・全高:1885mm
・ホイールベース:2870mm
・車両重量:1850kg
・エンジン形式:直列3気筒DOHC
・排気量:1433cc
・駆動方式:前輪駆動
・変速機:ー
・エンジン最高出力:98ps/5600rpm
・エンジン最大トルク:123Nm/5600rpm
・モーター最高出力:163ps
・モーター最大トルク:315Nm
・燃料消費率(WLTCモード):18.4km/L
・燃料タンク容量:52L
・サスペンション:(前)ストラット式、(後)トーションビーム
・ブレーキ:(前)ベンチレーテッド・ディスク、(後)ベンチレーテッド・ディスク
・タイヤ:(前)205/65R16、(後)205/65R16