最新のポルシェのエンジニアリングに触れたい!
トラベル系コンテンツディレクターとして糊口をしのぐ筆者が、齢60を前にして、憧れだった羽根付き「ポルシェ911」の購入を決意。買える? 乗れる? 維持できる? 赤裸々な姿で挑むポルシェライフの奮闘記です。はたして羽根付きポルシェ911はアラカンのシニアに、翼を授けるのか? 今回は991型GT3の筆者なり視点でのバイヤーズガイド編をお届けします。
991前期型GT3のエンジンにはちょっと不安が
と、まあ、あれこれ悩んできたが、狙いを定めたモデルは結局7世代目の911=991のGT3である。これが最後の大きな買い物と思って清水の舞台から降りてみようと思っている。だから、乗るのであれば最新のポルシェのエンジニアリングというものに触れてみたくなってきた。価格のことは置いといて……。
さて、前期型か? 後期型か? 見た目はフロントバンパーまわりがちょっとナナサンカレラっぽいのと、フロントウインカーが太い眉毛のようで愛嬌のある前期型のほうが好みだ。性能面は、筆者のようなへなちょこレベルでは、どちらもオーバースペックすぎて、じつはこだわりはない。ぶっちゃけ見た目と販売価格が判断の基準である。
ところがいろいろ聞き及んでいるうちに、前期型3.8LのMA1.75エンジンのことが気になりはじめた。2014年初期モデルのリコール問題である。それは、エンジン内のコネクティングロッドのボルトが緩み、名物のチタン製コネクティングロッドがクランクケースを破り、そこからオイルが漏れて運が悪いと火災に至ってしまう、というもの。消費者庁のデータによれば、日本に正規輸入された991前期型GT3で対象となったのは約40台とある。中古市場に出回っている個体は、リコールで対策済みエンジンに換装されているものがほとんどのはずだが、市場には履歴不明の並行輸入車も存在するだろう。
GT3の価値、いや命はエンジンにあるといってもいいから、かなり気になった。シロウトが手を出すにはいささかコワい。だいたい筆者はババヌキでよく負けるタイプだからなおさら腰が引けたのだった。価格は1500万円前後と歴代GT3の中でも低めで魅力的な存在なのだが……。
ただ、あとで知ったが、991前期型GT3用に用意した対策済みのMA1.75エンジンは、なんと10年または12万kmの保証がついた。そこまで保証するならこれはこれで安心感はある。じつは狙い目のモデルなのかもしれない。
決め手は、991後期GT3のエンジンのタフさ
さて、一方の991後期型GT3。その4.0Lエンジンの評判がよかった。気に入ったのは、どうも全般的に丈夫にできていそうなことにある。ポルシェいわくカップカーやGT3Rなどレース用モデルとベースは同じエンジンとのこと。と聞くと、ガラスのハートのようにも思えるのだが、高回転化への対応のみならず、レース参戦を考えるプライベーターのことなどを意識し、メンテナンスサイクルなどで負担がかからないよう、かなり堅牢性、耐久性を考えて設計し直しているらしい。
レースで使うワケではないから、丈夫というのは、長く乗り続けられる可能性も高そうである。たしかにカタログや文献を見ていると、これでもか! というくらいの頑丈ぶりが感じられる。
例えば、新設計の鍛造クランクシャフトは高強度合金鋼製で、クランクジャーナルは大径化され、GT3名物のチタン製コンロッドもMA1.75エンジンのものよりも幅が広い。当然ながらメインベアリングなど回転に寄与するパーツも類も大型化。そして、オイルフィードシステムは、あの伝説のレーシングカー「917」の12気筒エンジンに倣った仕様という(なんかすごそうだが、古すぎない!?)。オイルタンクは小型化しつつ、オイルポンプは新調され、7機もスカベンジポンプを搭載するなど、オイルの浄化や循環性能の向上にも力を入れている。
問題のあった初期のMA1.75エンジンの教訓からなのか、「丈夫ですよ~! 安心して乗れますよ~!」ということを暗に訴求しているようにも窺えてならない。
他にもGT3エンジンの象徴的部分のひとつ、バルブまわりもそれまでの油圧ラッシュアジャスター式から、なんと古典的なシム調整式のリジッド・バルブ・トレイン方式に変更(古めかしいが高回転でも暴れない。しかも調整不要らしい)。シリンダーボアにはプラズマ溶射コーティングを施して、さらなるフリクション低減、冷却性の向上を図るなど、高回転化とその耐久性面で幾重にも保険をかけているというか、慎重に作られているようにも感じられたのだ。
そんなタフさを感じさせる991後期型GT3なら、ビビり性の人間もすこし安堵できそうではないか! もちろん9000回転も回るエンジンで、しかもその内容はポルシェ・レーシングの本拠地・フラハトで開発されているレースモデルとほとんど同じ、というストーリーにもシビれた。そもそもナローに乗っていた時も2.8L仕様とかRSRカムとか1万回転タコメーターなど、使えもしないレーシングなスペックや仕様に夢を描いていたおっさんにとっては、これぞ、レーシングな香りのする羽根付き911の理想形に見えてきたのだった。
加えて、新型の992型GT3にも引き続き継承されているエンジンであることも選ぶに至った理由のひとつだ。すなわち991後期型は現時点でも最新の内燃機関NAエンジンを積んでいることになる。それにもしかしたら、これがポルシェ911最後のNAエンジンかもしれない(先ごろEUは合成燃料容認したのでなんともだけれど)。と思うと、なおさら心惹かれるのであった。
991後期型GT3は、どれくらい日本に生息しているのか?
ところで、991後期型GT3は日本にどれくらい存在しているのだろうか? 中古車市場の流通量が気になって、そもそもの数が知りたくなった。海外の情報によれば(正確さは不明。あくまで参考値)、991の前期型は生産台数6300台、後期型は9500台である。だとするとほぼ1.5倍だ。リコールの台数から前期型は年40台ほど輸入されていたことは明らかなので、生産台数と輸入台数が比例していると仮定すれば、後期型は年に60台ほど輸入されていたということになる。であれば991型は2018年、2019年の2年間で120台ほど。並行輸入車もあるから150台くらいは生息しているのかもしれない。
それにしても歴代GT3の中でも991後期型の生産台数はめちゃくちゃ多い。GT3RSですら4880台である。ということは991後期型の物件流通数は多いはず。そしてさほどレアなクルマでないということは、かえって狙い目なのかも! と明るく前向きに心躍らせたのだった。
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アラカンのおっさんは、はたして素敵な991後期型GT3と巡り合えるのか? あってもホントに買えるのか? 道はまだまだ遠そうです。
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