全日本EVレースの中位争いがおもしろい
トムスの舘 信秀会長が初代理事長となり、2010年にスタートした電動車両だけで行われる「全日本電気自動車グランプリ」(JEVRAシリーズ)。シリーズがスタートした当初から、最速EVの座をほしいままにしてきたのがテスラである。14シーズンを通して、テスラ「ロードスター」、「モデルS」、「モデル3」とつねにこのレースの主導権を握っている。そんなトップ争いとは異なるところで、国産EV同士の戦いも繰り広げられる。
日産リーフ、トヨタ ミライ、ホンダ シビックによる争いに注目!
今シーズン、とくに熾烈になってきているのが、日産「リーフ」、トヨタ「ミライ」、ホンダ「シビック」による争いだ。
この3台、#88 東洋電産・LEAFe+ (レーサー鹿島選手)はEV-2(モーター最大出力150kW以上250kW未満)クラスに参戦するBEV。#104 トーヨーシステムCNRミライAKIRA(鵜飼 龍太選手)はEV-F(燃料電池車)クラスに参戦するFCV、#634 MuSASHi D-REVシビックEVR(山下将史選手)はEV-C(エンジンをモーターに換装したコンバート車両)クラスに参戦する、EV化した元内燃機関車両である。素性も性能も全く異なる3台なのだ。
素性も違ううえにクラスも違うので、直接的な戦いではないのだが、極めて近いところにいる3台なのだ。もちろん、ペースやストラテジーの違い、直線の速さとコーナリング性能といった車両特性も異なる。同じクラスのライバルが存在していないということもあるのだが、この3台はつねにライバルを凝視し続けている。
すでに熟成感のある市販EVの日産リーフe+を走らせる東洋電産チーム。日産リーフで長年参戦しており、「e+」の投入後もそのパッケージをいかにうまくレースに合わせていくかを目標に、無駄のないエネルギー放出を目指し、足まわりなどの進化を続けている。
今季はTEINのサスペンションコントロールシステム「EDFC 5」を投入。これによりコーナリングスピードが飛躍的にアップし、同時に旋回中の姿勢変化に無駄がなくなったことで電費ロスも低減した。またフロントグリルをカットして開口部を広げ、その内部には整流板を配してラジエターの冷却効率を向上。さらにエアコンによる車室内のクーリングだけでなく、室内にスポットクーラーを配し、床下のセンター部から直接冷風を送り込んでいる。
シリーズ第2戦はコンバートEVシビックが勝利
EVにコンバートしたシビックを持ち込んだのは武蔵精密工業。EK9のシャシーに、日産リーフのモーター(EM57型)と40kWh容量のバッテリーを搭載させた車両で、2021年からJEVRAシリーズへの参戦を開始している。
フロントにモーター、トランスミッションはタイプRのものをそのまま使用。ドライバーズシートの後ろにバッテリーを横積みし、充電口はリアラゲッジスペースエンドに配置している。ただ熱ダレが厳しいということで、冷却性能を向上。さらに今季は助手席側にキャパシタを搭載し、電気の出し入れをキャパシタにも役割分担をさせることで、熱対策を強化した。しかしキャパシタの重量は70kgほどとなり、電動化で200kgほど重量が増えたところに重量増と一長一短といったところだろう。
ミライはトヨタ社内のチームである。国沢光宏選手の先代ミライで参戦経験し「あの時ほどではない」と言いながらも毎回何かしらのファインチューンをしているようだと、周囲の参加者たちが囁いている。
テスラ モデル3の3台に続く4番手争いを展開することになったこの3台。シリーズ第2戦となった5月の富士スピードウェイでの決勝レースは、まずは#104ミライがリードをするものの、#634シビックと#88リーフが肉薄する展開。スリップストリームを使いエネルギーを節約しながら効率よく追い上げ、レース終盤で#104ミライを2台が揃って追い抜くと、#88リーフが#634シビックを一旦はパスして4位に浮上。ゴール直前に#634シビックがこれをオーバーテイクし、今回はコンバートEVシビックが3つ巴の戦いに勝利した。
これからも着実に進化を続けていく3台の争いに注目だ。