メルセデス・ベンツのクルマ造りにおける定義とは
メルセデス・ベンツのクルマ造りには、一貫したポリシーがある。それは、その時代の最高の技術をクルマに反映させ、安全で高品質なメルセデス・ベンツ車を造ることにある。
メルセデス・ベンツはクルマを設計する信念を次のように言い表している。
・同一のエンジンから最高の経済性と性能を得ることはできない
・同一のサスペンションから最も柔らかい乗り心地と最高の操縦性を同時に得ることはできない
・同一のシャシーから最大限の室内スペースと最も操作しやすいホイールベースを同時に得ることはできない
・最低の価格で最高の品質を得ることもできない
逆説的な言い回しだが、いかに他の技術を犠牲にすることなく、より多くのものを取り入れることができるか。つまり、優れた個々の技術をどう折り合わせるか、それがつねに最大のテーマであり、最高のクルマは優れた妥協により生まれるというわけだ。
しかし、この場合の妥協とは理想と現実の間にあって、バランスのとれた妥協でなければならない。つまり、自動車の求める総合性能のバランスを納得ゆくまで追求し、安全で高品質なクルマを造ることにあると言える。
メルセデス・ベンツのクルマを設計する者にとって、クルマを安全に造ることは義務であり、同様に経済的に走るよう努めるのが義務であるとしている。とくに近年、地球環境・エネルギー問題に対しクルマの環境性能適合性への意識が非常に高まり、地球環境に適合したエコカーの人気は世界的な時流だ。
これに対するメルセデス・ベンツのクルマ造りの答えは、環境対策先進技術であるBlue EFFICIENCY(ブルーエフィシェンシー)による、ゼロエミッションの環境性能と安全で快適なラグジュアリー性の両立。さらに、2016年からは先述の「CASE」がクルマ造りの中核となり、市場の状況が許す限り完全な電気自動車を実現するという目標を追求し、車両のインテリジェントな接続や自動運転、新しいモビリティコンセプトにも重点を置いている。
またメルセデス・ベンツのクルマ造りの品質は、妥当な価格の範囲内で持っているすべてを投入し、可能な限り最高の品質を実現することにあるとしている。メルセデス・ベンツの品質は製品のアイデアを生むことから、開発~生産~車両の耐用年数~アフターサービスへと連なる基礎となっている。
クルマの品質を決定づけるのは設計。メルセデス・ベンツでは高水準の生産技術を駆使して、市場に適した製品を造り出すための最も重要な開発作業を設計段階で実施している。つまり、設計の段階から生産工程管理の専門家や経験豊かな製造技術者との間に緊密なコミュニケーションを維持し開発が進められる。
近年、自動車の開発生産に不可欠な道具となったのが、高度に発達したコンピュータプログラムである。メルセデス・ベンツは設計時点から最高の品質を追求するため、一般に流通しているソフトウェアやハードウェアでは不十分と判断し、数多くのプログラムやシステムを自社開発している。CAD(コンピュータ専用設計)、CAM(コンピュータ支援生産)、CIM(コンピュータ総合製造)、CAQ(コンピュータ支援品質管理)など、コンピュータによる開発生産を示す略称は周知の通り。
しかし、AIやロボット生産に頼ることなく製品管理に関しては、以前と変わらず熟練工により厳しくチェックされている。筆者が現役セールスマン時代、「10人の工員のうち1人は検査員です」と、よくセールストークに使っていものだ。
メルセデス・ベンツは「安全性の追求」を最重要テーマに掲げ、数々の革新的な安全技術をいち早く実用化してクルマ造りをしてきた。人間工学(エルゴノミクス)に限らず、生理学や心理学を取り入れ、人間を中心に安全設計をし、また安全性のほか、走行性や快適性、運転操作性に利便性、耐久性や環境適合性など総合的な概念を取り入れてクルマ造りをしているのだ。