クルマを文化する
REAL CAR CULTURE

AUTO MESSE WEB

クルマを文化する
REAL CAR CULTURE

AUTO MESSE WEB(オートメッセウェブ)

  • TOP
  • CAR
  • 【ベンツが追求する安全性】1939年から始まった安全技術の進化の歴史を振り返ります。いまでは当たり前の装備もベンツからでした
CAR
share:

【ベンツが追求する安全性】1939年から始まった安全技術の進化の歴史を振り返ります。いまでは当たり前の装備もベンツからでした

投稿日:

TEXT: 妻谷裕二(TSUMATANI Hiroji)  PHOTO: メルセデス・ベンツAG/妻谷コレクション

3.事故の被害を最小限に止めるための受動的安全性

・安全の為にはマスコットすら頭を下げる「外的安全性」

自動車以外の道路使用者の保護はきわめて重要な課題。つまり、歩行者や自転車走行者に対して、より大きな保護を提供する技術を数年にわたって開発している。具体的には、ボディの隅々に至るまでシャープで尖った部分がなく丸みを帯びているエクステリア。衝撃吸収バンパーや合わせガラスのフロントウインドウ、折りたたみ式サイドミラー。その他にも丸みを帯びたドアハンドル、埋め込み式フロントガラスワイパー等があり、長年にわたって優れた歩行者保護性能を提供している。

加えて画期的なアクティブボンネットである。歩行者と接触し衝撃が発生すると、フロントバンパー内のセンサーが感知し、スプリング式のエンジンフードリフターが作動。エンジンフードの後端が瞬時にして約8cm持ち上がり、衝撃をさらに緩和させる。

また意外なものまで安全に設計している。例えば、あのボンネット上にあるスリーポインテッドスターすら可倒式(ばねつき)となっており、歩行者が間違って当たっても安全。メルセデス・ベンツの場合、安全のためにはマスコットすら頭を下げるのだ。なお、現在このマスコットはSクラスのみ。他モデルでは黒の下地に大型化されラジエターグリルのセンターに位置し、革新技術の詰まった各センサーがぎっしりと埋め込まれている。

・メルセデス・ベンツの前後衝撃吸収式構造に代表される「内的安全性」

1951年、「前後衝撃吸収式構造」と「頑丈なパッセンジャーセル構造」の特許を取得した。1953年には、この世界初の衝撃吸収式構造ボディを採用した量産乗用車「180」を発表(セミモノコック)している。

その6年後、メルセデス・ベンツは1959年8月に生産を開始した「220Sb」(通称:ハネベン)で衝撃吸収式構造ボディを完成させ(モノコック)、乗用車のボディ構造に大きな改革をもたらした。

しかも室内はステアリングホイールやインストゥルメントパネル等に衝撃吸収材を使用し、埋め込み式ドアハンドルや脱落式ルームミラーをすでに採用していた。セーフティセルと呼ばれるこの安全車体構造は、乗員が乗る客室の剛性を上げ、その前後構造に衝撃吸収能力を持たせている。

メルセデス・ベンツでは正面衝突の場合、例えばボディ先端に10の衝撃エネルギーが加わったとすると、客室のフロント/Aピラーには1の衝撃エネルギーしか伝わらない構造にしている。オープンカーの厳しい「ルーフ落下テスト」では、Aピラーの変形はごくわずかであった。加えて乗員を守るため、13年の歳月をかけて開発したSRSエアバッグは1980年に世界で初めて搭載以来、今や安全の必須である。

・クラッシャブルボディと頑丈な客室の必要性

人体が損傷を受ける原因には、衝撃によるものと圧迫によるものがある。前者は非常に短い時間であり、後者は時間をかけてゆっくりと大きく変形するような衝撃。短時間に加わる大きな衝撃は、脳挫傷や骨の破壊が考えられ、ゆっくりとした大きな変形では圧迫が問題となり、内臓や下肢が大きく損傷を受ける。

大きな衝撃を和らげるには、ボディの衝撃吸収特性が重要になってくる。このため、物理的に柔らかいボディが必要となる。このボディはエネルギーを吸収でき、その特性からクラッシャブルボディと呼ぶ。一方、ゆったりとした大きな変形による圧迫に対しては、客室の生存空間を保たなければならない。このため、物理的に変形の少ない頑丈な客室が必要。つまり、この相反する物理特性を両立させるには、クルマの前部・後部は柔らかく、客室は頑丈にするコンセプトが必要になっている。

・相手車両や歩行者などにも配慮したコンパティビリティ

メルセデス・ベンツのコンパティビリティ(compatibility)とは、衝突時に相手車両や歩行者、自転車などへの影響を考慮し、相互の安全性を可能な限り確保しようというメルセデス・ベンツ安全哲学の一環だ。

メルセデス・ベンツがこのコンパティビリティの哲学を世界で初めて本格的に市販車へ導入したのが、1995年に発表した「Eクラス/W210」。ここで具体化されたのは、自らの衝撃吸収能力をより高めることで生まれたクラッシャブルゾーンの余裕を相手車両と分かち合うという構造である。

この技術はエンジンやステアリング機構、フロントサスペンションなどエンジンルーム内の主要メカニズムをインテグラルサポートと呼ばれる別枠に組み入れ、それを車両側に取り付けるという特別な構造で実現。現在、この考え方はメルセデス・ベンツの全モデルに反映され、衝突時にメルセデス・ベンツの車体前後が相手車両の衝突エネルギーを吸収し、より小さな車両の乗員におよぶ危険をできる限り回避するように設計されている。

ESF 2019の安全実験車に採用されているユニークな安全技術

メルセデス・ベンツは2019年6月に開催されたESF会議で発表した「ESF 2019」で、先進安全技術の数々を披露した。第5世代の安全実験車であるこのESF 2019は「GLE」をベースにし、自動運転システムの採用はもちろん、開発中のさまざまな安全システムが搭載された。パワーユニットはプラグインハイブリッド・システムだ。

このESF 2019が自動運転モードでの走行時にはステアリングホイールとペダルがバルクヘッドに格納され、クラッシュ時におけるドライバーの負傷リスクを軽減している。

とくにユニークなシステムは事故警告表示システムを備えていることだ。事故が発生した場合、自動的に車両の後方から小型の自走式ロボットが走り出し、後方を走行している車両に前方が危険な状態である事を警告して2次衝突事故を防止する。また車両のルーフからも三角表示板がポップアップし、同時にリアウインドウにも危険警告をディスプレイ表示するというものだ。

安全技術試験車両

そして、現在のメルセデス・ベンツの安全性は、ステレオマルチパーパスカメラとレーダーセンサーによる運転支援機能「インテリジェントドライブ」で今また確実にもう1段階上の次元に到達している。

そして、メルセデス・ベンツは2023年6月9日にSAEレベル3に対応したクラス最高のDRIVE PILOTシステムを発表。条件付き自動運転がカルフォルニア州当局から認定された、最初の自動車メーカーとなったのだ。

* * *

自動車を発明したメーカーの責任として、メルセデス・ベンツはつねに革新の安全技術を研究開発し、「安全性を標準装備」している。

現在では言葉や動作で全て自分の好みや学習をサポートする革新のインフォメーションシステムが主流となり、最適な移動を提供する「MaaS」でより豊かな生活が始まっている。その背景にはインターネットとつなぐコネクテッド(C)、自動運転(A)、シェアリング(S)、電動化(E)の「CASE」がある。とくに、自動運転とコネクテッドがさらに進化し、車内でエンターテイメントが存分に楽しめる。こうした時代に脱炭素への流れを踏まえ、AIやコンピュータに頼ることなくモビリティ社会の安全、ひいては自動車を発明した責任において、メルセデス・ベンツはいま一度「クルマは何よりも安全第一でつくられなければならない」と叫びたいことだろう。

12
  • 安全性理論
  • ヘッドライトスイッチ
  • 安全技術試験車両
すべて表示
  • 妻谷裕二(TSUMATANI Hiroji)
  • 妻谷裕二(TSUMATANI Hiroji)
  • 1949年生まれで幼少の頃から車に興味を持ち、40年間に亘りヤナセで販売促進・営業管理・教育訓練に従事。特にメルセデス・ベンツ輸入販売促進企画やセールスの経験を生かし、メーカーに基づいた日本版のカタログや販売教育資料等を制作。またメルセデス・ベンツの安全性を解説する独自の講演会も実施。趣味はクラシックカー、プラモデル、ドイツ語翻訳。現在は大阪日独協会会員。
著者一覧 >

 

 

 

 

 

 

 

RECOMMEND

MEDIA CONTENTS

WEB CONTENTS

 

 

 

 

 

 

 

人気記事ランキング

MEDIA CONTENTS

WEB CONTENTS

AMW SPECIAL CONTENTS