個性が光っていたシトロエンBX
「トラクシオン・アヴァン」(前輪駆動)と発音すると、それだけでシトロエン通になった気分が味わえるが、1919年の最初の量産車だった「タイプA」以来、独創的なエンジニアリングでクルマの普及を目指してきたのがシトロエン。巷で言われているとおり、シトロエンのロゴエンブレムの「ダブルシェブロン」は、創始者アンドレ・シトロエンが最初に手がけた事業が山型歯車の生産だったことに由来する。
マルチェロ・ガンディーニが手がけたBX
一方でここでは時代を一気に飛び越すと、1982年、パリサロンで登場した「BX」は、近年のシトロエンの中でも、世の中にシトロエンを広める役割を果たした1台だった。平たく言うと(語弊がないと信じていうと)、それまでのシトロエンが個性的でアヴァンギャルドな人が乗るクルマのイメージだったのに対して、普通の人でも乗っていいのかも……と思わせられたのがこのBXだった。
ざっくりと言うと「DS」、「SM」まで遡らないまでも、BXが登場するまでの世代のシトロエンは、直前は「GS」、「CX」(とコンパクトな「ビザ」)がラインナップを構成するモデルだった。それらに対してシトロエンの新世代移行の口火を切ったのがBXだった。クラス的には上級の「CX」と大衆車クラスの「GS(GSA)」との間を埋める車種として開発された。
このBXでやはり注目だったのがデザイン。それまでのシトロエンも、ことデザインにかけてきわめてユニークで、1955年に登場したDSに端を発した「宇宙船のような」といわれた流線型のボディがトレードマークだった。それに対してBXは一転、直線基調の、それもエッジを立てたスタイリングが何といっても特徴的だ。
この変貌ぶりの理由は、それまでのシトロエン社内のデザインから、新たに外部委託へとしたためで、その「発注先」はイタリアのカロッツェリア・ベルトーネ。そしてベルトーネで当時のチーフデザイナーだったマルチェロ・ガンディーニが手がけたのがBXのデザインだった。デザインも斬新だったが、ボンネット、リアゲートなどにFRPを採用し軽量化が図られていたことも見逃せない。
ちなみにガンディーニがベルトーネ在籍中に手がけた市販車は、マセラティ「カムシン」(1973年)、フィアット「X1/9」(1973年)、ランチア「ストラトス」(1974年)、ランボルギーニ「カウンタック」(1974年)など多数。
またランボルギーニ「エスパーダ」(1968年)と、その原形となった1967年のジュネーブショーのコンセプトカーの「マルツァル」(ガラスのガルウイングドアをもつユニークな4シーターだった)も、ガンディーニが手がけたクルマ。1979年にベルトーネから独立後はルノーと契約しており、2代目の「5」(シュペールサンク)などを手がけている。話は前後するが、1983年に市販車が登場したシトロエンBXは、ベルトーネ在籍時代のガンディーニの最後の仕事でもあった。