時代を先取りしたクルマだった
モータージャーナリストの中村孝仁氏が綴る昔話を今に伝える連載。第4回目はドイツから輸入したイタリアの希少車「イソ リボルタ レーレ」との出会いを振り返ってもらいました。
パールホワイトメタリックに輝く美しいボディ
イソというクルマを紹介しよう。1974年のことだったか、一気にクルマをドイツから輸入することになり、その選択を社長並びに自動車事業部長で行った。とはいうものの、何を導入するかはジュネーブショーのカタログ誌、『オートモビルレビュー』の写真を見て決めるだけ。
「これいいじゃねぇか」という社長の鶴の一声で大抵は決まる。そんな鶴の一声の1台が、イソだった。イソと言えば、スーパーカーで思い浮かべるのは「グリフォ」である。しかし、僕の会社が導入したのは「レーレ」というモデルだった。まだ当時はスーパーカーと言えばマニュアルトランスミッションが当たり前だった時代に、このクルマはオートマチックトランスミッションが搭載されていた。だから楽チンに運転が出来る。しかもエンジンはアメリカンV8だった。
この点に関して当時の自動車事業部長はしきりに「おかしいなぁ」を連発。なぜなら、イソはシボレーエンジンのはずなのに、やってきたモデルにはフォード製のV8ユニットが搭載されていたからである。当時そんな事にはとんと疎い僕は調べもせずにへぇ~と思っていたが、今になって調べてみると、レーレにはシボレーエンジン搭載車と、フォードエンジン搭載車があり、初期モデルはシボレーエンジン、そして後期モデルにはフォードエンジンが搭載されていることが判明した。
フォードエンジンはいわゆるクリーブランドユニットと言われる351cu.in.(約5752cc)のV8と同じくフォード製の3速クルーゾマチックが組み合わされていた。ボディはパールホワイトメタリックに輝く美しいものであったが、同時にそれは悩みの種。
じつはその当時パールメタリックのカラーリングはそこらの塗装屋さんでは再現することのできない代物で、要はぶつけたらおしまい……という厄介なものだったからだ。そんなこととはつゆ知らずに平気で乗りまわしていたが、今になってみると恐ろしい。
パワーは325psないしは330psと言われた。このフォードエンジン搭載のレーレは1972年~74年までの2年間製造されたもので、前半のモデルが325ps、後半のモデルが330psだそうだが、やってきたモデルがどちらだったかは分からない。
レーレの総生産台数はわずか285台
イソというメーカーについて少しお話したいが、元々はイソ サーモスという、主として冷蔵庫などを作るメーカーとしてスタートした。その後レンゾ・リボルタによって買い取られて社名をイソ リボルタとし、自動車生産に乗り出すことになった。
エンジニアだったレンゾが作り上げたのは、いわゆるバブルカーと呼ばれる「イセッタ」。大ヒットしたこのクルマは、のちにBMWでライセンス生産されたことで有名になる。1960年代に入りスーパーカーの生産に着手、グリフォをはじめとする何種類かのモデルを世に送り出すが、フォーミュラワンに手を出したことで失敗し、メーカーは1975年に消滅した。ただし現在もリボルタグループは存在し、ヨットや別荘などのデザイン分野で活躍している。
レーレは総生産台数285台といわれる希少なモデルで、1969年にデビュー、1974年まで生産されたもので、同社にとっては最後まで生産されたモデルとなった。写真でもわかるように2+2のクーペボディを持つ。
と言っても当時としてはフル4シーターと呼べる広い後席空間を持っていた。デザインはベルトーネのチーフデザイナー、マルチェロ・ガンディーニの作品で、同じ時代の作品に共通したモチーフが見受けられる。とくにライバルでもあったランボルギーニ「ハラマ」は近似性が強い。ちなみにレーレという名はレンゾ・リボルタの息子で、レンゾの死後同社のかじ取りを任されたピエロの奥さんの名を採ったものだ。
3速ATであったということもあるのか、このクルマにスーパーカーの片鱗を見ることはできなかった。たしかに速いは速いのだが、ポルシェのようなシャープさもフェラーリのような官能的なエンジンサウンドもなく、まだ若かった僕には心に残るクルマではなかった。
しかし、今にして思えば非常に時代を先取りしたクルマであり、もっと味わっておけばよかったと後悔する。果たして現在このクルマがまだ日本にあるのかも不明であるが、10年ほど前に草むらに放置された赤いレーレの姿があった。パールホワイトは当時塗り替えが効かなかったから、赤に塗り替えたのかもしれない。もったいない話である。
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じつはイソ、2021年に復活し、その名も「イソ リボルタ GTZ」というモデルをリリースしている。デザインしたのはザガート。ベースとなっているのはC7型「コルベット」で、シャシーもエンジンもC7をそのまま流用しているから、言ってみれば着せ替え人形のようなものである。限定19台が作られたそうだがすでに完売しているようである。ちなみにGTZのZはザガートのZ。ボディはカーボンファイバー製でそのスタイルはまさに1960年代の「グリフォA3/C」を彷彿させるものである。自動車メーカーとして復活するのかはこちらもわからない。
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