運転しまくり歩きまくるプロが独断と偏見でドライビングシューズをレポート
運転のしやすさを追求した靴はいくつもありますが、そのまま長時間歩き回るにはつらかったりしがちです。長距離ドライブ&ひたすら歩き回るのが日常茶飯事の自動車ライターが、長年にわたりさまざまなシューズを試してきた遍歴と、現在のイチオシを解説します。
運転がしやすくて歩いても疲れない「一足二鳥」な靴を求めて
ライターというのは、部屋にこもって原稿を書いているインドア派の人間、というイメージが強いかもしれません。実際、入稿前はそうしていることも多いのですが、しかし実際には、話を聞くためにどこであろうと現場に行き、到着したら歩き回って取材をする、というのが仕事をしている時間のほとんどを占めています。
その移動の手段は、機材の運搬もあるために、クルマがメインとなっています。片道100km走る、などは近い方で、東京から名古屋日帰り、仙台日帰り、新潟日帰りなどというのは、日常茶飯事です。そして現場に到着したら、たとえばユーザー取材などでは広い敷地の中をうろうろ歩き回りますし、サーキット取材の場合には、お目当ての人物を探してパドック内を行ったり来たりもあたり前。多いときには1日で3万歩、ということもあったりします。
そのため、これまでずっと、運転がしやすくて歩いても疲れない靴、というのを探してきました。いや、運転する靴と歩く靴を履き替えればいいじゃない、といわれるかもしれません。実際、そうしていた時期もありました。でも、面倒くさいんですよ。渋滞にハマって到着がギリギリになり、履き替えるヒマがない、ということだってありますしね。なので、両立できる靴があるなら、それにこしたことはないわけです。
そこで今回は、そんな自分がこれまで購入して履き、試してきた靴を紹介していこうと思います。
シューズに求める条件は3つ
最初に、自分がどんな靴を求めているのか、その条件を明らかにしておきます。
まずひとつ目は、靴の中で踵(かかと)がしっかりホールドされて、なおかつその踵は丸みを帯びている、ということです。運転をするときの足の位置は、ブレーキペダルを真っすぐ、思いきり踏み込める状態で踵の位置を決めます。ブレーキペダルは踵を置く場所を決めたら、そこを基点に拇指球のあたりで踏み込みます。もちろん急ブレーキの場合は、踵を浮かしてさらに全力で踏む、ということもありますが、基本はこれです。
アクセルペダルを踏む場合には、ブレーキの基点となる踵の位置は変えずに足を外側に開き、小指から薬指のあたりを使って踏み込んでいます。アクセルオフのときも踵は動かさず、足裏でペダルを感じながら戻し、ブレーキペダルに踏みかえるときは踵を中心に足を左に回転させ、まっすぐな状態で踏み込みます。こうするとき、靴の踵が尖っていたり、出っ張っていたりすると、足を右に開いたり真っすぐに戻す動きがやりにくいのです。そのため踵は丸くなっていないと困ります。
次の条件は、ソールにはある程度の硬さが必要である、ということです。これはアクセルペダルを戻すとき、ブレーキペダルを強く踏んだあと抜いていくとき、その感触をはっきりと感じたいからです。よく、アクセルを戻すときなどにペダルから足を離してしまう人がいますが、それでは踏み込み直すとき、微妙な調整が難しくなります。そのためペダルにはつねに触れていたいのですが、ソールが柔らかすぎたり厚すぎたりすると、ペダルに触れているのかいないのか、感触が伝わりにくくなります。それでは困るのです。
そして最後の条件が、歩いていて疲れない、ということです。これはソールの硬さにも関わってくることなので、正直いって矛盾しているとは思うのですが、両立してくれている靴があってもいいでしょう。
では早速、これまで使ってきた靴を見ていきましょう。ちなみに感想は、あくまでも筆者の主観によるものなので、履く人が違えば感想も変わってくると思います。写真の靴も、筆者自身が所有しているものとなっているため、現行モデルとはデザインなどの違いがあるかもしれず、履き心地も進化している可能性があります。その点、ご了承ください。
運転のしやすさ「だけ」ならレーシングシューズこそ至上
さて、こんなわがままな靴探しを始めたきっかけは、レーシングシューズを履いたのがきっかけでした。レーシングシューズというのは、競技をするドライバーのためのギアです。微妙なペダルワークをするための機能と、火炎からドライバーを守る、ということのみに特化してつくられているので、運転のしやすさはバツグンです。
ただし、歩くということに関していえば、レーシングシューズは、最低ライン以下といっていいでしょう。ソールが硬いので歩くと足が疲れやすいですし、フラットなデザインで溝はほとんどありませんから、路面が濡れていると非常に滑りやすくなります。レースの中継などを見ていると、ドライバーがマシンに乗り込む際、ソールをウェスで拭いている姿が映ったりしますが、あれはソールの水分を拭き取らないと、ペダルを踏むときに滑ってしまうからです。第一、レーシングシューズは歩くことを考えて作られていないので、普通の靴のように使うと、あっというまにソールがぼろぼろになってしまうのではないかと思います。もったいなくて試したことはないですが。
「ピロティ」に憧れながら出会ったプーマ「スピーダー」が逸品
使いやすいドライビングシューズを探し始めて、最初にこれは、と思ったのは「PIROTI(ピロティ)」のものでした。これは結局、購入できなかったため、写真はありません。ピロティはカナダのブランドで、イタリア製の革を使って仕立てられたものだったように思います。初めてこれを知ったのは、10年とか20年とか、だいぶ前に取材で伺ったロードスター軽井沢ミーティングでした。そのころは日本でも代理店があり、販売されていたのですが、価格が3〜4万円ほどだったかな? ちょっと高くて、その場で購入するという決断ができませんでした。
ただ、実際に使っている人に伺った話では、街中を普通に歩いていても疲れず、それでいてロードスターの狭い足元スペースでのペダルワークもやりやすい、とのことだったので、モノとしては高いレベルにあったのではないかと思われます。いまにして、買っておけば良かったと思っているモノのひとつです。公式サイトでの購入は可能なようなので、お財布に余裕ができたら考えてみたいと思っています。
ピロティを買い損ねてから数年後、いろいろと探している中で見つけたのがPUMA(プーマ)の「SPEEDER(スピーダー)」でした。プーマはスポーツブランドですが、レーシングスーツやレーシングシューズも作っています。F1フェラーリチームのギアがプーマ製なのは、ご存知の方も多いと思います。
このスピーダー、価格はそれほど高くなかったのですが、非常に使いやすい靴でした。ソールは指の付け根部分に丸型のキャップがあるので、ペダルの感触が伝わりやすく、その他の部分はごく小さなポイントの集合体のようになっているのでクッション性もあり、普段履きとしても使えました。これは2足を履きつぶし、3足目を購入してそろそろ新しいのを買うか、となったとき、店頭から消えていました。どうもそのころ、廃番となってしまったようです。そのためこの3足目は、保管してあります。
イタリアのロット「トロフェオ」も安くて優秀だった
スピーダーが手に入らなくなったため、さてどうするかとなったわけですが、プーマには他にもドライビングシューズがあります。それが「キャットシリーズ」です。このシリーズにはスピードキャットやドリフトキャットなど、さまざまなタイプが用意されています。メルセデスAMGやBMWなどとコラボしたモデルもありました。
いま持っているものは名前を忘れてしまっていますが、このキャットシリーズにはソールが薄くて硬め、という共通した特徴があります。運転の方をメインに考えればそれでいいのですが、歩く方の比重が大きくなると、自分としてはちょっとつらさを感じました。そのためこれは現在、保管状態になっています。
頼りにしていたプーマがいまひとつだったため、スピーダーをつぶれるまで履くか、と考えていたとき、ネット通販で目に留まったのが「LOTTO TROFEO ROAD XIII(ロット トロフェオ ロードXIII)」という靴でした。
ロットはイタリアのスポーツブランドで、サッカースパイクなどでも知られています。そのロット製スパイクを一時期使っていた、ということもあって、なんとなく大丈夫じゃないか? と思い、写真を見ただけで購入しました。実際の使用感は、若干幅広なのでペダルに干渉しやすい、というところにさえ気をつけていれば問題はなく、歩行時の疲れも比較的少ないもの。価格も安かったことから、一時期はメインの靴として使っていました。