積載車の上がよく似合う……なんて思ったり
初めて立ち入る港湾の業者さんの施設の中は、とても新鮮だった。途方もなく大きな倉庫の片隅に、通関が終わった後に保管されていたチンクエチェントが4台、何てことない感じで並んでいる。どのクルマもコンテナに入って船で運ばれて来たため、前後のバンパーは外されている。何だかアバルトが手を入れた500のレーシングカーみたいだな……なんて思ったのは後になって写真を見てからで、現場では初対面となったターコイズブルーをただただしげしげ眺め、観察し、ニヤニヤするだけ。
ちょっとぼんやりくすんだようなオレンジとも赤ともつかないブリックレッドというカラーのクルマを見て、この色も好きだなーなんて思いながら、やっぱりターコイズ ブルー×レッドのクルマをしげしげ見てしまう。
「嶋田さん、パッと見ですけど、仕上がりよさそうですね。まだちゃんとチェックしないと何ともいえないけど、いい感じだと思いますよ」
「そうなんっすか? 俺にはただの綺麗なチンクエチェントにしか見えないんですけど」
「ボディをやりなおしてますからね。綺麗じゃなかったらダメでしょ」
「まぁそうなんでしょうけど……いやぁ、色、いいわコレ。すっごく綺麗な色」
「昔は白とかばっかりで人気のない色だったんですけど、最近はわりと“好き”っていう人が増えましたね。僕もいい色だと思いますよ」
「内装の赤がこれまたいいっすねぇ。思ってたより控えめな赤だし。ターコイズブルーとも結構マッチングいいですね。これは意外でした」
そんな雑談をしながら倉庫からクルマを出し、1台ずつ積車に積んでいく。最後に残ったのがターコイズブルー×レッド号で、それはチンクエチェント博物館にとりあえず運び、深津さんたちがチェックした後にナンバー取得とその他のために別のガレージに運ばれ、それが終わってからPDI、つまり納車前整備のためにまた別のガレージに運ばれることになっている。
積車に乗ってる状態でもドアを開けてみたりエンジンフードを開けてみたりフロントフードを開けてみたりと、落ち着かない僕に、深津さんは「これから一緒に博物館に戻るんだから、そこでたっぷり見られますよ」と苦笑い。その後まったく深津さんの言葉どおり博物館で写真を撮ることも忘れてクルマをしげしげ見ることになったのだけど、港を出る前、積車に載せられたチンクエチェントを見て、僕はこんなふうに思ってたのだ。
「いや、このクルマ積車の上も似合うよなぁ……」
もしかしたらそんなことを思ったのが悪かったのだろうか……? その後、何度となくお世話になる運命が待ち受けてるとは、このときは知る由もなかったのだ。
■協力:チンクエチェント博物館
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