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「フェラーリ」じゃない「ディーノ」、しかも「308」じゃない「208」に価値はあるのか? イタリア専売モデルに試乗【旧車ソムリエ】

1975年型ディーノ208GT4

1975年型ディーノ208GT4

「クラシックカーって実際に運転してみると、どうなの……?」という疑問にお答えするべくスタートした、クラシック/ヤングタイマーのクルマを対象とするテストドライブ企画「旧車ソムリエ」。今回はこの企画でも初となるイタリア製スーパーカー、でもちょっとヒネリを利かせた1台をご紹介することにした。「ディーノ」の名を受け継いだ「208GT4」である。

小排気量のV8エンジンを搭載したのは、税制対策のためだった?

かつての日本と同じく、2000ccを境に自動車税額が大きく跳ね上がったイタリア国内マーケットに向けて、スーパーカーを専業とするメーカーたちも1970〜80年には排気量を2Lに縮小したモデルをイタリア市場限定で販売。ランボルギーニは「ウラッコP200」、マセラティも「メラク2000」を発売した。

そしてフェラーリも負けじとばかりに、「ディーノ308GT4」および「フェラーリ308GTB」に搭載されていた3L V8・4カムシャフトユニット「ティーポF106A」型エンジンをベースに、総排気量を2926ccから1991ccまで縮小した「F106C」を開発。4基のウェーバー社製ダウンドラフト式キャブレターを組み合わせて、当時の2L級エンジンとしては世界トップクラスに相当する170psをマークすることになった。

この2L版V8ユニットは、1975年にデビューした「ディーノ208GT4」の心臓部として、初めてラインナップに加わることになる。1973年にディーノ・ブランドから誕生していた2+2ミッドシップ車の308GT4に追加設定された、イタリア市場専売モデルである。

208GT4は、エンジン以外は基本的に308GT4と共通のモデルであり、カロッツェリア・ベルトーネ時代のマルチェロ・ガンディーニが生み出した傑作の数々と同じテイストを感じさせる、シャープなウェッジシェイプ・ボディが与えられていた。ただし、フロントフード/エンジンフードのエア抜きルーバーが、308の頃の塗装仕上げからアルミ地肌のシルバーとされていることなど、外観にもいささかの相違点が存在するようだ。

また、1976年春には308GT4とともにフェラーリ・ブランドに一本化され、エンブレムやホイールにも「フェラーリ化」が図られたのだが、それ以外にも補助灯やグリルなどに細かい小変更が施されていたという。

かつて過小評価されていたV8ディーノも今や復権

ところで、筆者がフェラーリとその独特の世界観に熱烈な憧れを抱くようになった1970年代の末ごろ。ディーノ/フェラーリ208GT4は、少なくともわが国においては明らかに不当な評価を受けていたと言えよう。フルスケール版の308GT4とて、308GTB/GTSに対する脇役。今風に言えば「じゃない方のサンマルハチ」扱いだった。まして、イタリア国内専売である208GT4が当時の日本に上陸を果たした事例は皆無に等しく、文字どおり未知の存在だったのだ。

しかし世紀の変わり目あたりから、複数の208GT4が日本にも輸入されるとともに、数年前にクラシケ・フェラーリの価格相場が暴騰した際の国際マーケットでは、ディーノ/フェラーリの生産台数総計640台(ほかに諸説あり)という希少性も手伝って、308GT4と同等かそれ以上の価格で取引されているという。

とはいえ、40年前にさかのぼる少年時代の偏見から抜けきれない筆者は、ちょっと意地の悪い期待感を携えながら試乗に臨んだのだが、そんな浅はかな予想はあっさりと裏切られることになった。もちろん良い方に、である。

2リッターV8は扱いやすく身のこなしも軽やか

今回ご紹介するディーノ208GT4は、このモデルとしては最初期型にあたる1975年型。2010年代初頭にクラシックカーとして日本にやってきた個体で、現オーナーである贄田勇人さんがイタリアから個人輸入したものである。

かつてイタリアにいた時代の歴代オーナーによって、ホイールをクロモドラ社製の星型に換装するなどのフェラーリ化が施されていたものの、現在では贄田さんがコツコツとパーツを集め、1975年型「ディーノ」に戻している途上とのことだ。

そしてランチア「ストラトス」やフィアット「X1/9」など、同時代のベルトーネ製モデルたちに共通した「コ」の字型のドアハンドルを引いて、現代のフェラーリよりもさらに低いコクピットに乗り込む。そののち、チョークを引いたりアクセルをパカパカと煽ったりするなどのキャブ車特有の「始動儀式」を強いられることもなく、ちょっと長めのクランキングを経てエンジンに火を入れると、即座に安定したアイドリングに入る。

この時代の208GT4のテールパイプは左側1本出しとされていたが、この個体では純正オプションだったと思しき、伊ANSA社製の4本出しスポーツマフラーが組み合わされている。アイドリングは非常に安定しているが、聴こえてくるサウンドは予想以上に荒々しいものだった。

この獰猛な唸り声から、排気量相応にかなりピーキーなエンジン特性であることを覚悟しつつ、この時代のフェラーリらしく重いクラッチを踏み込む。そして同じく、往年のフェラーリの象徴たるゲートから突き出たシフトレバーを左手前に引き寄せて走り出すと、直後からあっけないほどトルクフルなことに感心させられてしまう。

排気量を約2/3まで縮小するため、71mmのストロークはそのまま、ボアを81mmから66.8mmまで短縮したロングストローク型であるうえに、ファイナルギアが低められていることも相まって、低速域から扱いやすいセットアップとされているのだろう。

とはいえ、ロングストロークゆえだろうか、トップエンドの伸びについては、筆者の記憶に残る308GT4よりは少しだけ足りない気がしなくもない。

それでもスムーズな吹け上がり感は、小排気量マルチシリンダーの「特権」とも言うべき心地よさ。ちょっと不用意にスロットルを踏み込むと、タコメーターの針は恐ろしいほどの勢いで高回転側へと飛び込もうとする。

くわえて、4連装されたウェーバー・キャブレターの吸気音が高まるとともに、低回転域ではバラついていた排気音のトーンが、4000rpmを超えて完全に揃ってきたころからドライバーを襲ってくる、まるで脳髄が痺れてしまうような快感。それは、これまで体験したあらゆるV8フェラーリにも勝るかに感じられた。

そしてハンドリングについては、もとよりシャシーバランスの高さでは308GTB以上……? とする評価もあった308GT4と変わらない。例えば身のこなしがボディサイズや長めのホイールベース(2500mm)から予想していた以上に軽やかなうえに、タイトコーナーでもスロットルコントロールは容易。見切りの良いボディ形状も合わせて、あらゆる曲率のコーナーにも安心して飛び込んでいくことができる。

タルガ・フローリオの夢が見られる市販スーパーカー

ちなみに今回の試乗コースは、那須高原の美しいワインディング。シチリア島内陸部の山道に似ていなくもない。だから1960年代初頭の公道レース「タルガ・フローリオ」に、「248SP」などのディーノV8レーシングスポーツとともに挑んでいたドライバーたちは、きっとこんな風景とサウンドを体感していたのでは……? なんて妄想をかき立てられてしまうのだ。

308GT4と共通のシャシー、小排気量V8のもたらした類まれなバランスは、とくにドライビングスキルが十人並みな筆者のごときドライバーにも、安心してアクセルを踏ませてくれる。絶対的な速さでは308に大きく劣るものの、エンジンを下から上まで使い切るライトウェイトスポーツのごとき愉悦は、大排気量・大出力のフェラーリでも味わえないたぐいのものだろう。

とやかく言ってないで、もう認めてしまおう。208GT4は「ディーノ」であろうが、「フェラーリ」であろうが、まぎれもない跳ね馬であると。そして小排気量V8エンジンがもたらす、ほかのフェラーリには望むべくもないライトウェイト感も相まって、比類なきフェラーリとも言えるのである。

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