ついにMT車にもアイサイトが搭載される
これまでAT車のみに採用されてきたスバル独自の運転支援システム「アイサイト」ですが、今秋発売予定となる「BRZ」改良モデルからはついにMT車にも搭載されることとなりました。購入者の約6割がMTを選ぶというBRZに搭載予定のアイサイトは、AT車仕様と何が違うのでしょうか?
運転する楽しさを損なわない配慮も
スバルは2023年6月20日、マニュアルトランスミッション車(以下MT車)向けの運転支援システム「アイサイト」を開発し、今秋発表予定のBRZの改良モデル(日本仕様車)に初採用すると発表した。これまでオートマチックトランスミッション車(AT車)にのみ搭載されていたアイサイトが、今後はMT車にも採用されることになる。
アイサイトは、世界で初めてステレオカメラのみで自動車だけでなく歩行者、二輪車までも対象として機能するプリクラッシュブレーキや、追従機能付クルーズコントロール等を実現したスバル独自の運転支援システム。2008年5月に初めてアイサイト搭載車を発売して以来、世界累計販売台数は550万台を超えるという。
スバルが発表したリリースには、このように書かれている。
「今回BRZの改良モデルに採用するMT車向けアイサイトは、BRZのオートマチックトランスミッション車向けのアイサイトをベースに、プリクラッシュブレーキや追従機能付きクルーズコントロール(ACC)、車線逸脱・ふらつき警報機能、先行車発進お知らせ機能、後方ソナー警報機能のクリアランスソナーを装備。アイサイトの高い衝突回避、衝突被害軽減、運転負荷軽減の各性能へMT車の特性に合わせた制御を施し、リアルワールドの幅広いシーンでの安定した動作を実現、運転する愉しさと安心を高い次元で両立した」
少し背景を振り返ってみると、2021年11月から国内で販売する新型車(国産車)を対象に「自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)」の搭載義務化が始まっている。それ以降に発売された新型車にはすべて自動ブレーキが標準装備されていなければならないということになる。そして、それ以前に発売された継続生産車には2025年12月までの猶予期間が与えられている。
2021年7月に発表された現行BRZは、継続生産車としていずれはMT車にも自動ブレーキを搭載しなければいけない課題を抱えていたというわけだ。じつはMT車に自動ブレーキやACCを搭載するのは、スバルが初というわけではない。これまでにも、トヨタ「カローラスポーツ」、ホンダ「シビック」、マツダ「マツダ3」、スズキ「スイフト」といった国産車や輸入車の一部でも採用例はある。スバルの開発陣としても、できるだけ早いタイミングでという思いはあったようだ。
スバルがこれまでAT車で培ったアイサイトの独自のノウハウを活かしながら、重量やコスト増を最小限に抑え、違和感のない制御を実現しながら貴重なFRコンパクトスポーツカーとしての運転の楽しさを損なうことがないよう、入念にテストに時間を費やしてきたというわけだ。
30km/h以上の巡航時に活躍
ポイントは大きくふたつ。ひとつはその衝突被害軽減ブレーキ、スバルではプリクラッシュブレーキと呼ぶ。もうひとつが前走車追従機能付きクルーズコントロール(ACC)だ。
まず緊急時のプリクラッシュブレーキだが、MT車でも完全停止までサポートする。MT車の場合、完全停止までブレーキをかけ続けると停止する前にエンジンがストップ(エンスト)する可能性があるが、万が一そうなったとしても完全停止まで作動するという。しかし、停止後は徐々にブレーキが解除されるため、ドライバーがブレーキを保持する必要がある。機能が作動したら慌てずにドライバー自身もブレーキペダルを踏むこと。
そして、前走車追従機能付きクルーズコントロール(ACC)は、MT車では車両側が自動でギアチェンジできないため、走行条件を30km/h以上で走行中かつギアは2速~6速の場合に設定。この条件を満たしていれば、ACCが作動する。ただし、先の走行条件のように全車速対応とはいかず、停止時からの自動再スタートもできない。また、速度が25km/h以下になった場合、ACCは自動でキャンセルされる。
そのほか、クラッチを5秒以上踏み続ける、ギアがニュートラルの状態で5秒以上走り続けるなどした場合も同様だ。ちなみにこれらの機能にはオフスイッチがついており、サーキットなど前走車との車間距離が接近するケースも想定されるスポーツ走行の際には、オフにすることが推奨される。
BRZのオーナーのおよそ6割は、MT車を選んでいるという。積極的に自分でクルマを操りたいと思う一方でアイサイトの評判の高さを耳にするにつけ、できればMT車にも搭載してほしいと思うのもまた当然のことだろう。ACCは、停止と再スタートを繰り返すような大渋滞のシーンはカバーできないものの、30km/h以上の巡航時には相当な疲労軽減につながるはず。また、完全停止までサポートしてくれるプリクラッシュブレーキの存在も心強い。MT派ドライバーにとっても待望の機能に違いない。