ジェントルマンドライバーが全てを引き出せるよう徹底的に磨かれた
発表の舞台となったのはフィオラノテストトラックの脇に立つASGT、コルセ・クリエンティの本拠地だ。ここには常時、顧客のF1マシンやXXマシンが保管され、整備されている。またF1を除くマラネッロ製レーシングカーの開発拠点でもあり、「499P」もこの場所で磨かれた。当然ながら、SF90XXシリーズにとってもそこは生まれ故郷と言うべきだろう。
実際のスタイリングを間近で見れば、SF90とはまるで異なる攻撃的なオーラを放っていた。写真で見ても分かる通り、巨大な固定式リアウイングを備えたからだ。じつを言うとマラネッロ製ロードカーがこれほど大きなウイングを装備するのは1995年デビューのスペチアーレ、「F50」以来のこと。以降のいかなるロードカーも大袈裟なウイングに頼ることなく、それでいて必要十二分な空力性能を実現してきた。
言い換えれば今回は、それだけでは補いきれないほどの性能、とくにダウンフォースを得たかったというわけだ。フロントの特徴的なSダクトや、ベースモデルの面影などまるでないロングテール仕様のリア、巨大なディフューザーなど、エアロダイナミクスは徹底的に練り込まれ、250km/h時に最大530kgものダウンフォースを得るという。
ベースとなったSF90シリーズは、すでに1000psを誇るスーパースポーツである。しかもPHEVで、それなりに重量がある。そんなマシンの実力の全てをジェントルマンドライバーが引き出せるよう空力やシャシー制御、ブレーキを徹底的に磨き込んだ、というのがこの新型車の価値だ。
スペックだけを見れば+30ps(エンジンで+17ps、モーターで+13ps)、軽量化も10kgに止まるが、そもそもSF90自体が「もうそれ以上いらない」というほどにパワーを引き上げられ、ダイエットしていたということを今回、改めて思い知らされた。
パワートレインのシステム構成そのものはノーマル仕様と変わらない。けれども細部に至るまで手を加えており、たとえば8速DCTギアボックスの制御ロジックや吸気プレナムチューブおよびレゾネーターの配置などはV8サウンドをより楽しめるよう再設計された。サウンドも楽しみのひとつである。
そのほか、搭載された興味深いテクノロジーは枚挙に暇がない。F1由来のパワーブーストはその効果だけでフィオラノラップタイムを0.25秒も縮めるという。ABSエヴォコントローラーは制動性能を別次元に引き上げた。
というわけで、そこまで言われると気になるのがSF90XXストラダーレのフィオラノラップタイムだ。テストドライバーのラファエル・デ・シモーネは「とてつもなく速い」といったが、残念ながらタイム計測は今年の後半、メディア向けテストドライブ中に予定されているという。
おそらく、このクルマの真髄や価値は今までのモデル以上に「乗ってみなきゃわからない」。そもそも1000psのSF90ベースというだけで、スペックでの想像を超越する。フィオラノを駆ける日が楽しみでならない。