フィオラノを駆ける日が楽しみでならない1台
ジェントルマンドライバーによるサーキット走行を次なる開発へと活用するXXプログラム。そんなXXマシンの世界をロードカーとして再現すべく、1000psを誇るスーパースポーツ「SF90」をベースとした公道を走れるXXマシン「SF90XX」が発表されました。
XXマシンの世界をロードカーとして再現
マラネッロのロードカーにまた新しいコンセプトの限定車シリーズが誕生した。SF90XXストラダーレおよびスパイダーと名乗る新型車は、その名の通り、「XX」の名を冠する初めてのロードカーである。
XXとはXXプログラムのことを指す。この20年間にわたって、マラネッロの超VIPカスタマーを対象にトラック専用のXXマシンを販売、ジェントルマンドライバーによるサーキット走行を通じて数々のドライビングデータを収集し、次なる開発へと活用するというプログラムだ。フェラーリカスタマーにとっては、自分のドライブが跳ね馬ロードカーのテストドライバーのように評価されるわけだから、これ以上の喜びはない。
否、サーキットにおいてピュアなドライビングファンを跳ね馬で堪能できるだけでも最高の経験というものだろう。しかもそのマシンはというと、「エンツォ フェラーリ」や「ラ フェラーリ」、「599」といった12気筒マシンをトラック専用に開発したこだわりの限定品(30台前後)ばかりだったのだからまさに至福、F1クリエンティやチャレンジシリーズと並ぶ、跳ね馬ファンの桃源郷であった。
そんなXXマシンの世界をロードカーとして再現しよう。それが今回のコンセプトであり、目新しい点だ。今までの限定車とどう違うのか。たとえばピュアなロードカーであるV12 FR2シーターモデルやV8ミドモデルをベースにした高性能版は、トラック志向が強いとはいえあくまでもロードカーだ。
俗に「スペチアーレ」と呼ばれる頂点シリーズもまたロードカーの最高峰でしかない。XXマシンは過去にエンツォやラ フェラーリをベースに製作されたことからも分かるように、スーパースポーツをベースとしたトラック専用仕立てであった。レーシングカーではないけれど、ジェントルマンドライバーが思う存分そのパフォーマンスを引き出し、サーキットで楽しめるように設計されている。
そのコンセプトを、電動パワートレインを採用し次世代の高性能を表現するスーパーカーのSF90シリーズに適用し、あまつさえより多くの人に楽しんでもらえるように限定ロードカーとして販売する、というわけだ。
ちなみに限定台数はクーペ799台(欧州価格77万ユーロ=日本円にして約1億2100万円)、スパイダー599台(同84万ユーロ=約1億3200万円)で、すでに完売。ちなみにあくまでもロードカーなのでXXプログラムには参加できない。これは筆者の勝手な要望だけれど、XXライトのようなSF90XXシリーズ専用のプログラムを作ってほしいと思う。限定とはいえこれだけ数も多いと、何かしら「面白い趣向」が必要な気もするのだが……。コレクターには関係のない話だけれど。
ジェントルマンドライバーが全てを引き出せるよう徹底的に磨かれた
発表の舞台となったのはフィオラノテストトラックの脇に立つASGT、コルセ・クリエンティの本拠地だ。ここには常時、顧客のF1マシンやXXマシンが保管され、整備されている。またF1を除くマラネッロ製レーシングカーの開発拠点でもあり、「499P」もこの場所で磨かれた。当然ながら、SF90XXシリーズにとってもそこは生まれ故郷と言うべきだろう。
実際のスタイリングを間近で見れば、SF90とはまるで異なる攻撃的なオーラを放っていた。写真で見ても分かる通り、巨大な固定式リアウイングを備えたからだ。じつを言うとマラネッロ製ロードカーがこれほど大きなウイングを装備するのは1995年デビューのスペチアーレ、「F50」以来のこと。以降のいかなるロードカーも大袈裟なウイングに頼ることなく、それでいて必要十二分な空力性能を実現してきた。
言い換えれば今回は、それだけでは補いきれないほどの性能、とくにダウンフォースを得たかったというわけだ。フロントの特徴的なSダクトや、ベースモデルの面影などまるでないロングテール仕様のリア、巨大なディフューザーなど、エアロダイナミクスは徹底的に練り込まれ、250km/h時に最大530kgものダウンフォースを得るという。
ベースとなったSF90シリーズは、すでに1000psを誇るスーパースポーツである。しかもPHEVで、それなりに重量がある。そんなマシンの実力の全てをジェントルマンドライバーが引き出せるよう空力やシャシー制御、ブレーキを徹底的に磨き込んだ、というのがこの新型車の価値だ。
スペックだけを見れば+30ps(エンジンで+17ps、モーターで+13ps)、軽量化も10kgに止まるが、そもそもSF90自体が「もうそれ以上いらない」というほどにパワーを引き上げられ、ダイエットしていたということを今回、改めて思い知らされた。
パワートレインのシステム構成そのものはノーマル仕様と変わらない。けれども細部に至るまで手を加えており、たとえば8速DCTギアボックスの制御ロジックや吸気プレナムチューブおよびレゾネーターの配置などはV8サウンドをより楽しめるよう再設計された。サウンドも楽しみのひとつである。
そのほか、搭載された興味深いテクノロジーは枚挙に暇がない。F1由来のパワーブーストはその効果だけでフィオラノラップタイムを0.25秒も縮めるという。ABSエヴォコントローラーは制動性能を別次元に引き上げた。
というわけで、そこまで言われると気になるのがSF90XXストラダーレのフィオラノラップタイムだ。テストドライバーのラファエル・デ・シモーネは「とてつもなく速い」といったが、残念ながらタイム計測は今年の後半、メディア向けテストドライブ中に予定されているという。
おそらく、このクルマの真髄や価値は今までのモデル以上に「乗ってみなきゃわからない」。そもそも1000psのSF90ベースというだけで、スペックでの想像を超越する。フィオラノを駆ける日が楽しみでならない。