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思わずニヤニヤ!フィアットのカラーチョイスはこだわりに満ちていました【週刊チンクエチェントVo.10】

当時のフィアットがチンクエチェントに用意した色は、単にカラフルなだけではなくこだわりに満ちていた

これからのフィアットは明るくカラフルで陽気なものになる!?

名古屋の「チンクエチェント博物館」が所有するターコイズブルーのフィアット「500L」(1970年式)を、自動車ライターの嶋田智之氏が日々のアシとして長期レポートする「週刊チンクエチェント」。第10 回は「エクステリアとインテリアの組み合わせは大切」をお届けします。

色彩がたくさん用意されてた2代目チンクエチェント

名古屋港とチンクエチェント博物館で僕のところに来ることになるチンクエチェントをシゲシゲ眺めて東京に帰ってきて以来、ともすればニヤニヤしちゃいがちな自分をアホだと思いながら、それでもやっぱりニヤニヤしちゃいがちになる。

フィアット500というクルマにはつねに好感を持ってはいたけれど、ぶっちゃけ、いちばん好きなクルマというわけでもなく、「ザ・ベストテン」の10位から5位くらいの間を行ったり来たりしてたような存在だった。だが、それが4位から2位を行ったり来たりするくらいへと変化した感じだ。

もちろん目が合っただけでまろやかな気持ちにさせられちゃうような、なごみ系の姿カタチ。それは大きい。……いや、車体は超ちっちゃいけど。でも、もうひとつ大きな要素があった。エクステリアがターコイズブルー、インテリアが暗めのレッドという色合いだ。その組み合わせが、たまらなく気に入っちゃったのである。鮮やかだけど品があり、派手じゃないのに埋没しない。そのニュアンスが僕の好みにバシッとはまっちゃったのだと思う。

思えば2代目チンクエチェントの時代には、そうした色彩のカラーがたくさん用意されてたんだよなぁ……と思った僕は、クルマを見に行く数日前、2021年2月半ばあたりのチンクエチェント博物館のFacebookの投稿を思い出した。

館長の深津さんが作った当時のエクステリアとインテリアの組み合わせの早見表(?)が、Dタイプ、Fタイプ、Lタイプ、Rタイプとタイプごとに投稿されてたのだ。パソコンで作ったモノだから、当然ながら実際のカラーと色味は少し違う。けれど、いくつかを除けば大抵の外装色も内装色も見たことがあるから、頭の中でパッと像が結ばれる。

ちなみに今はもうその投稿を発見するのがだいぶ大変だから、あらためて深津さんに送ってもらったモノの一部をここのPHOTO GALLERYに入れておくので、興味のある方はぜひどうぞ。

ひとつのボディカラーに対して2〜3種類のインテリアカラーを設定

その早見表を見ると、いや、正確に言うなら早見表を見て頭の中にある実際のカラーと照らし合わせると、当時のフィアットがチンクエチェントに用意した色が、単にカラフルなだけじゃなくてこだわりに満ちていたことがわかる。

例えばFタイプにはブルー系に6色が存在し、そのうちの1色を除く5色が併売されてた時期すらあるのだ。そしてそれらも含め、すべてが絶妙な色合い。深津さんによれば「その頃のフィアットの首脳陣は派手なだけの尖った色は品がないって考えてたみたい」ということなのだけど、レッド、ブルー、イエローも原色に近い色ではなく、レッドならダーク系だったり珊瑚色っぽかったり煉瓦色っぽかったりする。そしてひとつのボディカラーに対して、ほとんどが2〜3種類のインテリアカラーが設定されていた。

うーむ……さすがは芸術の国。玄関を出たら5分で世界遺産……というのは言い過ぎではあるけど、生活圏内に歴史的建造物や芸術作品や何やかやがゴロゴロあるのが当たり前の国。美的感覚みたいなものが人々にデフォルトで備わってるのだろう。

もちろん日本人の多くにも日本独自の美的感覚がちゃんと備わってはいるし、日本に存在する色彩もじつはとんでもなく絶妙だし、色につけられる名前の情緒深さは感動的ですらある。けれど、それがクルマに活かされてるとは今ひとつ思えなかったりするところもある。まぁ……絶妙な色合いの塗料をこしらえるのも結構なコストが必要だしね。

ところがイタリアは1950年代から1970年代にかけて、国民車のような安価なこのクルマで、それをやってのけてたのだ。国民性と言えば言えるのだけど、これ、本当にすごいことだと思う。

これからのフィアットのラインナップカラーはカラフルになる!

ところが近年では、その真逆のような現象が起きている。絶妙な色の現行チンクエチェントをイタリアで見かけることは稀だ。日本ではインポーターの努力で彩りの美しいカラーがつねに1色はラインナップされてたり、あるいはスペシャルカラーの限定車がわりとひんぱんに用意されたりしているけど、現地でそういう個体を見かけることは極端に少ないのだ。

とあるイタリア出張のときに現地の人に「どうして?」と訊ねたら、「フィアットに限ったことじゃないけど、洗車がめんどくさいから汚れが目立たない色を選ぶヤツが多いし、何より高い。標準色以外の色もあるけど、それを選ぶとかなり高価なんだよ」なんて答えが返ってきた。どのくらい高価になるのか金額は忘れちゃったけど、日本のオプション価格の比じゃなくて驚いた記憶だけは鮮明に残ってる。これも時代なのかな……?

なんて思ってたら、タイムリーなことに本国のフィアットから驚愕のニュースが飛び込んできた。6月26日のプレスリリースのタイトルは、こうだった。

『Goodbye gray, welcome colors』

なんと、その日をもってグレイのクルマの生産を中止した、というのだ。いわく「今日からフィアットのラインナップのカラーは、イタリアの海、太陽、大地、空からインスピレーションを得たものになる。モビリティは、これまで以上にカラフルで陽気なものになるだろう」と。

日々の暮らしの中における色彩の重要性を高めることでイタリアの生活様式を体現し、フィアット・ブランドが提唱している現代の「ドルチェ・ヴィータ(=甘い生活)」をこれまで以上にはっきり伝えていくための決断らしい。たしかにイタリアっていう国には、鮮やかな色彩がたくさんあるものね。どんな街をほっつき歩いてても、ちょっとばかり嬉しくなってくるくらいに。

リリースの中で、フィアット・ブランドのCEOであるオリヴィエ・フランソワはこう言っている。

「私たちはこれまでの常識を覆します。これは挑戦的で破壊的なことであり、喜び、彩り、明るい考え方のブランドとしてのフィアットの統率力をさらに強化することを目的としています。イタリアは色彩の国であり、今日からフィアットのクルマたちもまた同じなのです。フィアットは皆さんに明るく前向きな生き方を促したいと考えています。これは7月4日に発表される新型フィアット600eの使命のひとつでもあるのです」

なるほど。いや、それは素晴らしいことだと思う。無彩色の中で生きるのと美しい彩りの中で生きるのとでは、間違いなく気持ちの持ちようが変わってくるもんね。マジメに大英断だと思うな、僕は。ついでにさりげなく前々回に紹介したフィアット600eの発表日まで教えてくれて、ありがとう。

そのオリヴィエ・フランソワが「さよなら、グレイ」を宣言する公式動画が「トップがここまでやるかー?」な感じでおもしろかったので、貼り付けておくことにしよう。

■協力:チンクエチェント博物館

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