伝説のエンジニア、ニコラ・マテラッツィの終の住処、サプリにて

フェラーリ「288GTO」や「F40」など数多くのスーパーカーを生み出したことで知られる、イタリアを代表するエンジニア、ニコラ・マテラッツィ氏（1939年1月28日～2022年8月24日）。イタリア在住の野口祐子さんが2022年春、コロナ禍のなか入退院を繰り返していた氏に3年ぶりに会いに行ったときのエピソードを振り返ります。

南イタリアの小さな町サプリで本に囲まれて暮らす

2022年3月30日、ナポリでの用を済ませ、鈍行に乗って南東へ約2時間、サプリの街へ。サレルノ県サプリはポリカストロ湾に面している、人口7000人弱の小さな街。夏は海外からもこの美しい海を求めてやって来る観光客であふれるそうだ。

下車するとニコラが愛車オペル「アストラ」で迎えに来てくれていた。いつも彼が大好きなホンダのクルマに乗っての出迎えだったが、どうもその当時はオペルに変えていたようだ。

入退院を繰り返しているということだったので、健康状態を心配していたが、久しぶりに会うニコラは元気そうだった。いつものニコラ節、反フィアット論は健在だった。

窓から海を一望できるニコラの家の中にはエンジン関係の本ばかり。雑誌や書籍が山積みになっている。下の階は本の倉庫で、何万冊もある本には全て目を通しているという、その証にどの本にも付箋が貼ってある。

スイスからニコラに会いに来ていた親子と同席

私が到着した前日にスイスからニコラに会いに親子が来ているとのことだった。彼らは最近フェラーリ「F40」を購入し、このクルマの生みの親であるニコラにぜひ会っていろいろ話をしたい、とはるばるスイスから電車を乗り継いで来たらしい。ちょうどホテルに戻っているところだった。

その日、皆で夕食に行った。ホテルから戻って来たピエール＆アメリー親子。なんと手には大きな車体部品を持っていた。そう、ピエールはニコラにサインをもらうためにF40からドアのインナートリムとフューエルリッドを取り外しわざわざ手荷物で持って来たのだ。あ、だから飛行機ではなく、電車だったのだ、とピンと来た。飛行機では検査が厳しく簡単には持ち運べないだろう。

さて、彼らがどうしてこのニコラに辿り着いたか、長い物語を聞いた。