コレクターズアイテムとしてはとても魅力的な仕様に仕上げられている
フェルッチオ・ランボルギーニが1963年に、独自の高性能GTを生み出すために、アウトモビリ・ランボルギーニ社を創立したのはよく知られている。つまり2023年は、アウトモビリ・ランボルギーニにとっては創立60周年のアニバーサリー・イヤーにあたるわけだが、実業家のフェルッチオは、自動車メーカーの創立以前にも、いくつかの会社を経営していた。農業用のトラクターを生産するランボルギーニ・トラットーリなどは、その最も代表的な存在である。
軍用車からの流用パーツに画期的なメカニズムを導入
同社の設立は1948年のことであったから、当時のイタリアはまだ第二次世界大戦からの復興の最中にあった。もちろんイタリアに農業機械を生産するメーカーがなかったわけではなく、例えばフィアット傘下ではフィアット・トラットーリが順調に生産を再開し始めていたし、民間のランディーニ社も同様に勢いを取り戻していた。
そこに新興勢力として誕生したランボルギーニ・トラットーリは、「カリオカ」と呼ばれるトラクターの生産を始めるが、エンジンやトランスミッション等のメカニカル・コンポーネンツは、すでに役にたたなくなった軍用車両からの流用品という、きわめて魅力に乏しいものだったのだ。
だがこのエンジンに、ランボルギーニ・トラットリーチは、画期的なメカニズムを導入する。当時ライバル各社は、トラクターを使用するために高価なガソリンを必要としていたが、ランボルギーニは始動時にのみガソリンを使用、その後は軽油でエンジンを駆動するという技術を開発したのだった。
使用コストの安さから人気を集めた古いエンジンを搭載したランボルギーニ製のトラクターは、当初は週に1台程度の販売だったものの、数年後には年間で約200台を販売するまでに至る。そのエンジンこそが、ランボルギーニが特許を取得し、のちに大きな成功の理由となる、3.5Lの直列6気筒エンジン、「モリス」だった。
1950年代に入ると、ランボルギーニのトラクターはさらに品質を向上させた。1952年には「DL15」、「DL20」、「DL25」、「DL30」からなるニューモデルのラインナップも発表。翌年にはさらに「DL40」と「DL50」の両モデルも追加設定された。
約900台強のDL25の中の1台が出品
2023年3月22日〜29日に行われたRMサザビーズのガラジスタ・コレクションに出品された1956年式のDL25は、1952年から1958年までに生産された約900台強のDL25の中の1台だ。搭載エンジンは2.5Lの直列2気筒で、最高出力は25ps。これに4速MTが組み合わされている。
実際に農作業で使用されていたときには、これよりもさらに汚れた外観であったことは間違いないが、現在ではチャーミングなレッドとグレーのカラーでコレクターズアイテムとしてはとても魅力的な仕様に仕上げられている。
はたしてトラットリーチ時代のランボルギーニを落札しようという熱狂的なファンはいるのか。フロントグリルにはトリノのライセンスプレートが残るが、公道走行のライセンスはイギリスで得られたというこのDL25。結果的にそれは1万1213ポンド(邦貨換算約205万1980万円)という価格で落札された。ランボルギーニのファンは、その歴史をさかのぼる中で、トラットリーチの時代の作品をもコレクションに加えたくなるのか。まさに驚きの結果だった。