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「イプシロン」はランチア? それともクライスラー? イタリアの小さな高級車のルーツは「アウトビアンキ」でした【カタログは語る】

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TEXT: 島崎 七生人(SHIMAZAKI Naoto)  PHOTO: 島崎 七生人

ランチア イプシロンは2024年にEVとして新型がデビュー予定

ランチアといえばラリーでの「デルタ」の活躍が有名なイタリアの名門ブランドですが、近年は存在感が薄かったのも事実。ですがステランティスグループの中でランチアのブランドも復活を目指し、第1弾として2024年にコンパクトカー「イプシロン」の新型を発表するとのことです。40年近くの歴史をもつイタリアの「小さな高級車」の歩みを当時のカタログから振り返ります。

日本では影が薄すぎてマニアックな存在だった?

これは実話だが、日本仕様のクライスラー「イプシロン」が販売されていた時だから、もう10年ほど前になる。用事ができ、当時用意のあった広報車で自宅から最寄りのカメラ量販店に行った。で、買い物が済み、パレット式だった立体駐車場の出庫で自分のクルマが降りてきて係員に呼び出されるのを待っていたのだが、「プリウスのお客様!」「プリウスαのお客様!」と車名の呼び出しが続いた後、係員が一瞬ウッ! と詰まるのがわかって「品川○○のお客様!」と急にナンバーを読み上げての呼び出しに。

見ると筆者が乗ってきたイプシロンが降りてきているのが見えた。プリウスとプリウスαを区別するくらいの「専門職」でも、やはりイプシロンは得体の知れないクルマだったのか。あるいは今にして思えば、ランチアのバッジがついていないことに納得がいかなかったとしたら、それはそれである意味でマニアックだったのだけれど……。

アウトビアンキY10から始まった「Y」の系譜

ところでイプシロンの系譜は、高性能版のアバルトも設定され最終的に16年の長寿だったアウトビアンキ「A112」の後継車として「Y10」が1985年に登場したところから始まった。基本は1980年の初代フィアット「パンダ」(141)をベースとし、全長3390mm×全幅1510mm×全高1415mmと小柄で少し背の高いコンパクトなボディサイズが特徴。デザインは短い全高ながらウェッジの強いベルトライン、ブラックアウトされたリアゲートなどが特徴で、ディテールそのものはシンプルながら、ただのコンパクトカーとは違う、一風変わった雰囲気を漂わせていた。

それはインテリアではなおさらだった。内張りや仕様によってはシートもアルカンタラとした空間は、このクルマが「小さな高級車」と言われたゆえんでもあった。当初の日本仕様のカタログにはこう書かれていた。

「内装材はイタリアのファッション界をリードする洋服やバッグのデザイナー、世界でも最もぜいたくなものとして知られるイタリア家具の職人等を交えて吟味」

装備では、スイング式のリアクオーターウインドウが標準でパワー式、フロントドア側はオプションというあたりもおもしろい。ダンパーもスプリングも味付けはしなやかで、快活なエンジン(当初の排気量は999ccと1048ccで、後者にはインタークーラーターボの設定もあった)とともに優雅な走りが楽しめた。

初代ランチア イプシロンはエンリコ・フミアがデザイン

もちろんユニークな佇まいは、1995年に本国で登場したランチア イプシロンでも踏襲された。Y10からさらに発展したようなスタイルは、ランチア在籍時代のエンリコ・フミアが手がけたもので、量産車では彼は他にランチア「リブラ」、アルファ ロメオ「164」、同「GTV/スパイダー」などでもその手腕を発揮している。イプシロンで特徴的だった尻下がりのサイドラインやフロントグリルなど、往年のランチア車のエッセンスを踏襲したものだ。

またこの代のイプシロンでは当初「カレイドス」と呼ばれた全112色のボディカラー(基本色12色+オプション100色)が用意されたことも話題となった。当時のフィアット「プント」をベースとしながらも、内外観ともに「奮った」デザインだったのはY10と同じだった。

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