団塊ジュニアが「BRZ」を斬る!
AMW編集部員がリレー形式で1台のクルマを試乗する「AMWリレーインプレ」の最後を務めるのは、編集長西山。撮影も編集者自らが担当する当企画、日中はとても試乗&撮影ができるゆとりのない西山は、どうしても深夜の撮影となってしまうのです。カスタム&チューニング業界の救世主となったスバル「BRZ」は、初試乗となる西山の眼にどのように映ったのでしょうか。
BRZと86のもたらしたものは大きい
いま、日本のカスタム&チューニングシーンを語る上で、絶対に外せないのがトヨタ「86」とスバル「BRZ」である。近頃アフターパーツメーカーの代表と話す機会がよくあるが、「86 & BRZ」の登場で沈滞していた業界が一気に息を吹き返したという話をよく聞く。トヨタファンだけでなくスバリストをも巻き込んで──さらには新たなクルマ好きを生み出しつつ、アフターパーツ業界を活性化させた貢献度は計り知れない。
これほど注目度の高い86 & BRZであるにも関わらず、実は初代も含めて一度も触れたことがない。自分で購入するならE36 318isだよな、と、デビュー当時思ったかどうかはさておき、単にご縁がなかったというのが実情だ(担当していたメディアでは取り上げにくかったというのが本当のところ)。ということで、クルマ業界にいながらにして86 & BRZヴァージンであるのは、とても貴重な存在という見方もできる。
今回は週末をまたいで試乗することができた。しかも取材先にチューニング系ライター氏を助手席に乗せて向かったこともあって、先代モデルからの改良点から、86とBRZの違いなどもひと通り車内でご教授いただいた。それらの情報を繋ぎ合わせればそれなりの内容にはなるけれども、ここでは一切聞かなかったことにして、初めて二代目のBRZに乗った者の視点のみの印象で書かせていただくとする(というか、せっかく教えていただいたことはすべて忘却の彼方だ)。
エントリーモデルとしてのBRZ
改めて、スバルBRZである。少し前に、当連載で「スープラ」を取り上げたが、スープラに比べると外観に余分なものがない。つまり、デザインで惑わせるものがない分、ストレートに本質を表している。その本質とは、お求めやすいスポーツカー──エントリーモデルであるということだ。
スープラには、デザイン上の間伸び感を抑えるためか、機能的には意味のないパーツがボディのあちこちに据えられている。それもいかにも機能的であるかのように。あるモデル女子に、「この黒いパーツって、なんの意味があるんですか?」と聞かれて返答に窮したこともある。
思い出されるのは、バブルの頃の三菱「GTO」のサイドに設けられていたダクトのようなものだろう。これなんぞは当時から随分な言われようだったが、現行スープラにそうした声は聞かれないのは幸いである。
こうしたデザイン上の処理はなにもスープラだけではなく、最新の欧州車でも普通に見受けられるので、今となってはとくに珍しいことではない。とはいえ、本当に「速さ」を極めるようなスーパースポーツには、こうした虚飾は一切ない。
──と、その存在の是非はともかくとして、デザイン上のアクセントとなっていることには変わりなく、コストアップにつながっていることは間違いのないところだろう。
回り道をしたが、BRZにはそうした虚飾が少ないので、一層その存在がクリアである。そこで、昔もこうしたクルマがあったよなぁ、と思い出したのは、ハチロクであった。当然だけど。
スーパーカーやスーパースポーツに憧れる若者が、最初に購入できるクルマであることはもちろん、それ自体も憧れとなるような存在、それがBRZなのである。
コストを掛けずに上手に演出
いまや懐古的にしか見ることができないハチロクも、発売当時はスポーツカー好きの心をくすぐるあの手この手が満載であった。トレノのリトラクタブルヘッドライトは言うまでもなく、コクピットはドライブしている時に気分を高揚させるデザインとなっていた。
メーターパネルフード両側に多くの物理スイッチを網羅するのは、70年代コンセプトカーあたりからよく見かけるようになり、80年代のスポーツカーなどでも採り入れた手法だが、ハチロクの場合はスイッチを並べるはずの両峰には、エアコン吹き出し口とダイヤルがうまく配されている。当時のトレンドの雰囲気を上手に活かしたデザインである。
BRZももちろんデザイン的にトレンドを踏襲してある。先代から踏襲したボディスタイルは、古典的でありながらも左右フロントフェンダーやトランクリッドの処理など、しっかりと現代のトレンドも取り入れてある。
フル液晶となったメーターパネルはセンターにタコメーターを配し、視認性の高いアナログメーター表示(スピードは数字で表示)。その両脇に各種インフォメーションが表示されるが、この配置は長らくフェラーリが採用しているもので、ランボルギーニをはじめとするスーパースポーツの分野では王道の配置だ。もっとも車両価格が一桁違うウラカンなどをはじめとする欧州スーパースポーツは、スイッチひとつでさまざまな表示に切り替えることができるが、むしろ、センターに表示するのをタコメーター/スピードのみと割り切っている点が、ピュアなスポーツカー然として潔い。
走行モードを「TRACK」にすると、タコメーターはバー表示になる。AE86の頃にもデジタルメーターがあったが、それを想起させてくれるのは嬉しい限り。さらにメーターパネルの左には、電圧計・油圧計/パワー&トルクカーブ/Gモニターなどを切替表示できる。
前回試乗したスープラと比べると、コクピットのデザイン、マテリアル、そしてテクスチュアの演出は、エクステリアから受ける印象に比例していて齟齬がない。スープラは、メーターパネルそのものとそこに表示されるインフォメーションのデザインが外観から受ける印象に比べてかなりチープに感じられたので、シートに座った時に拍子抜けしてしまった。BRZはそのバランスがいい。
団塊ジュニアには「青春プレイバック」の1台
話は変わるが、先日、クルマ好きのパパ友から、息子と共用で遊ぶために、マツダ「ロードスター990S」を新車購入したことを聞いた。20年弱前に、私のE30M3と当時の彼の愛車で、深夜のヤビツ峠や伊豆スカイラインを走りに行ったことのある友人である。
購入したばかりのNDロードスターで、夫婦で伊豆のワインディングを走った感想を聞くと、「もうこの歳になると、絶対的な速さではなくて、操る楽しさや心地よさだね、クルマに求めるものは」とのこと。
当然のことながら、クルマは日進月歩で進化している。エントリーモデルとしてのBRZは、90年代に青春を過ごしたわれわれが当時接していたクルマとは比べ物にならないほど素晴らしい。もちろん、これはBRZに限らず、すべての現行車に言えることではある。現代のクルマは、完璧すぎて手のかけようがない。だからクルマ熱にうなされる青春の一時期、もっとクセの強い、手をかければかけるだけ応えてくれる旧車の世界に足を踏み入れる若者が多くなったのも頷ける現象だ。
その一方でBRZのコクピットに座ると、私のような世代にとっては、ギラギラしすぎず、サラリと走りを楽しめ、普段使いできる佳きパートナーになってくれそうだ、と思う。二十歳前後の頃を思い出して、夜な夜なスーパーオートバックスに出向いてシフトノブを交換してみたり、マフラーなんかも選んでみたり……。そんな行為がクルマに夢中になっていた頃を思い出すトリガーとなって、毎週末の早朝ワインディングドライブが楽しみになりそうだ。
峠の路肩で、積載車を待つなんてことはまずないという絶対的安心感もある。もう、こうしたクルマとの面倒な駆け引きはすっ飛ばして、コーナーを駆け抜ける時の快楽だけが欲しいお年頃なのだ。もちろん真夏の渋滞でも涼しい車内でオーバーヒートの心配もなく、派手に目立って好奇の目にさらされることもなく……。
ということで、BRZはエントリーモデルである。その一方で、団塊ジュニア世代にとっては、青春プレイバックの一台でもある。わが家も大学生の息子と共用で、趣味車のBRZを購入しようかな、なんて妄想してしまったくらいだ。息子は先代モデルのデザインが好きとのこと。そこで、中古市場でいくらくらいなんだろうと日本全国の中古車物件をネット検索したりするのもまた、若い頃を思い出して、なんとも楽しい時間だったりするのである。