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廉価版でも往年のアルファ ロメオの走りは秀逸!「GT1600ジュニア」は麗しきグラントゥリズモでした【旧車ソムリエ】

新車さながらのレストアが施された1972年型アルファ ロメオGT1600ジュニア

1972年型アルファ ロメオGT1600ジュニア

「クラシックカーって実際に運転してみると、どうなの……?」という疑問にお答えするべくスタートした、クラシック/ヤングタイマーのクルマを対象とするテストドライブ企画「旧車ソムリエ」。今回は1960年代から70年代にかけて生産された、イタリアンスポーツクーペの歴史的傑作、アルファ ロメオ「ジュリアGT」シリーズの歴代モデルの中から、1972年型の「GT1600ジュニア」をご紹介させていただくことにしよう。

名作ジュリア クーペのエントリーモデル「ジュニア」の最終進化形とは

1963年秋、1570cc/106psのアルファ・ツインカムを載せて誕生したティーポ105系「ジュリア スプリントGT」は、巨匠ジョルジェット・ジウジアーロ氏の出世作となったベルトーネ製のモダンで美しいフル4シーターボディの功績もあって歴史的な大ヒットを収めたものの、若い購買層にとっては高嶺の花であったのも否めない事実だった。

旧来の「ジュリエッタ スプリント」の流れをくむ「1300スプリント」も並行生産が続いていたのだが、やはり古さは否めず、新たな廉価版GTの登場を待望する声は日に日に高まっていたという。

その期待に応えたアルファ ロメオは、1965年にジュリア スプリントGTが「GTV」に進化したのとほぼ時を同じくして、エントリーモデル「GT1300ジュニア」をデビューさせる。

エンジンは、101系と呼ばれる後期型ジュリエッタから継承された、総アルミ軽合金製直列4気筒DOHC 1290cc。2基のウェーバー社製ツインチョーク・キャブレターが組み合わされ、旧ジュリエッタ時代の高性能版「ヴェローチェ」の80psを上回る、89psのパワーが与えられることになった。

そしてこのアルファ・ツインカムには、この時代にはまだ少数派だった5速MTが組み合わされ、美しいクーペボディを170km/hで走らせる。これは当時の1.3L級4座クーペとしては、世界最速にも相当するスペックである。しかも4輪ディスクブレーキなどの高度なメカニズムは、スプリントGTからそのまま継承されていた。

イタリアでは「スカリーノ(小さな階段)」、日本では「段つき」と呼ばれる時代の外観は、アルファ伝統の盾の左右に広がるラジエターグリルに設けられた一条のクロームモールで、三本モールを与えられた上級のGTVと見分けられた。

一方インテリアでは、ステアリングがジュリアGT系の3本スポークから2本スポークに変更されるなどのコストダウンが図られていたものの、持ち前のスタイリッシュで豪奢な雰囲気は不変だった。

リーズナブルな価格に対して内容は本格的。世界的に大ヒットを収めたGT1300ジュニアは、ジュリア スプリントGTVがノーズの意匠を大きく改変し、エンジンの拡大を図った「1750GTV」へと1967年に進化したのちも「段つき」のまま継続されるが、1970年になって1750GTVの平らなボンネット。いわゆる「フラットノーズ」に、よりシンプルな2灯ヘッドライトを持つ専用グリルと一条のクロームモールを組み合わせた、後期モデルへと進化を遂げる。

さらに1750GTVが「2000GTV」へと進化したのに伴い、GT1300ジュニアとの間に開いたギャップを埋めるために、1570ccユニットを復活させた「GT1600ジュニア」も1972年に追加。1974年に型式名が「ティーポ105」から「ティーポ115」となり、そのほかにも数回に及ぶ小変更やフェイスリフトを受けながら、1977年まで生産されたという。

それは官能性と実用性を両立させた、秀逸な小型グラントゥリズモでした

試乗記へと移る前に、ちょっと横道にそれることをご容赦いただきたい。

筆者は四半世紀ほど前から約4年間にわたって、1968年型のGT1300ジュニアを毎日のアシ車として愛用していたことがある。それは内外装ともに「GTA1300ジュニア」を完全再現し、リアシートは撤去。エンジンも1750系のものに換装していたという、いささか邪道ともいえる1台であった。それでも、そのドライビングプレジャーは極上というほかなく、今なお手放したことを大いに後悔している。だから、このGT1600ジュニアのステアリングを握るというミッションは、個人的にもとても嬉しいものだったのだ。

今回の「旧車ソムリエ」のため、さるベテランエンスージアストからご協力いただいたのは、GT1600ジュニアとしては最初期にあたる1972年に製造された1台。近年になって新車さながらのレストアが施されたもので、純正指定の樹脂製からナルディ社製のウッドステアリングに換装され、当時は主に2000GTV用の純正オプションだったカンパニョーロ・エレクトロン102E、通称「ミッレリーゲ(Millerighe)」アロイホイールを装着していることを除けば、あらゆる面で徹底的にオリジナリティを維持しているじつに好ましい個体である。

大きなグラスエリアを持つキャビンは、コンパクトなボディサイズの割には快適なスペースを得ている。分厚いシートは、掛け心地/ホールド性ともに良い。また後席は、大人が長時間乗るにはやや狭いながらも、単なる+2以上のスペースを有する。つまりは、美しくも実用性に富んだ4座クーペといえるだろう。

ジュリア スプリントGTから継承された1570ccのアルファ・ツインカムは、都市伝説的に神経質と噂されるウェーバー社製40DCOEキャブレターを2連装しながらも、エンジンの始動はチョークレバーの助けを借りる必要もなく、クランキングがやや長めなことを除けばセル一発。すぐに「ボッボッボッボッ……」という勇ましくも粒の揃ったサウンドとともに、安定したアイドリングに入る。

トランスミッションからロッドやリンクを介することなく、直接斜めに突き出た長いシフトレバーは、かなりストローク長め。また、英国製クラシックスポーツカーのような「カチカチ」感は無いながらも、「コクコク」と決まる節度感は悪いものではない。

そして、傷みやすいことでは定評のあったシンクロメッシュ機構を労わるため、いったん2速に「舐める」ように入れて、そのあと1速に入れるというプロセスは、筆者の右手には織り込まれた行為である。重すぎずミートポイントの素直なクラッチも相まって、重さ930kgの車体は容易にスタートする。

今となっても、イタリアンクラシックの入門篇

伝説のスポーツクーペとはいえ、基本は実用性も追求した4座クーペであることから、アルファ・ツインカムは低速域から扱いやすい。ただしエンジンの回転が高まり、サウンドが「フォーンッ!」という澄んだものとなってきたあたりからトルクも乗ってきて、今や死語となりつつある「カムに乗る」体験ができる。

だから同じ「テンロク」DOHCであっても、たとえばロータス・ツインカムなどよりも明らかに煽情的なフィーリング。筆者の拙い経験の中で洋の東西、あるいは時代を問わず、これほど官能的な4気筒エンジンはほとんどないと確信している。そしてこのエンジンこそが、かつて世界中のクルマ好きを魅了した走りの世界観をもたらしてくれるかに思われるのだ。

一方シャシーについては、スポーツカーというよりは小型のグラントゥリズモというキャラに沿って乗り心地も悪くないのだが、それと引き換えに深いロールを伴う、クラシック・アルファ愛好家にはおなじみのコーナーリングスタイルとなる。

また、ウォーム&セクター式のステアリングは低速域でやや重く、クイックさでもラック&ピニオン式には少々劣る。したがって敏捷なスポーツカーというよりは、やはりGTの王道を行くモデルだったといえるだろう。

* * *

つい10年ほど前までは「段つき」に比べてかなりリーズナブルに入手できた「フラットノーズ」だが、近年のクラシックカー市場高騰の影響を受け、かなり高価なものとなってしまったのは事実。以前のように「本格的イタリアンクラシック入門篇」とは、安易に言えなくなったようだ。

でも4年間アシ車として愛用した筆者自身の経験からも、ジュリア系クーペはひとたびキッチリと仕上げたなら、信頼性も充分にある。現在の市況にあってでも覚悟を決められる方々には、今なお入門篇としても好適なモデルと断じてしまいたいのである。

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