オプションも多数含まれている魅力的な1台
欧州一格式の高い「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ」に付随して開催されたRMサザビーズ「Villa Erba」オークション。2023年は、長年にわたってコンクール・デレガンス全体のオーガナイズを行ってきたBMWの名車たち、ことに近現代の「M」モデルたちが「The M Power Collection」と銘打って多数出品されることになったようだが、今回はその中から、まだ新車デビュー時の記憶も生々しい、2016年型の「M4 GTS」を紹介することにしよう。
もっともハードコアなF82系M4クーペとは?
E92時代の「M3クーペ」に初設定されたGTSに続き、初めて「4シリーズ」を名乗ったF82系においても、そのもっともハードコアなバージョンとしてM4 GTSが設定された。それは2015年の東京モーターショーでワールドプレミアされた当時としては、BMW 3/4シリーズの持ち前のパフォーマンスの頂点を極めたモデルだったといえるだろう。
サーキットを主な戦いの場として開発されたこのモデルは、同時代のM3/M4から発展した直列6気筒ターボチャージャーつきユニットを搭載。レース用テクノロジーから導入され、市販車としては世界初となるウォーター・インジェクションシステムを採用した。
このシステムは、吸気用のサージタンク内に水噴射インジェクターを配置して、吸気温度を下げるというもの。それによって、安全に過給圧を上げてパワーアップを図ることができることから、スタンダード版M4から50psアップに相当する、500psという最高出力を獲得することに貢献した。
また、カーボンファイバーに置き換えられたボンネットとトランクリッドのパネル、20%の軽量化を果たしたチタン製マフラーの採用など、細かい軽量デバイスの積み重ねによって、ウェイトは1510kgにまでシェイプアップされていた。
さらに、調整可能なフロントスプリッターとリアウイングはサーキット走行に最適化されたうえに、専用のインテリアトリムやアロイホイールを装備。サスペンションも、サーキット向きのセットアップで締め上げた。
そしてリアシートを潔く取り去った代わりに、4点式シートベルトのアタッチメントつき専用ロールバーが装備されている。実際、このモデルはノルドシュライフェ(ニュルブルクリンク北コース)をわずか7分28秒で周回し、一定数が市販されたMモデルとしては最速のラップタイムを記録することになったとされている。
M4 GTSは世界限定700台の生産で、日本国内では30台だけが限定販売。当時の新車価格は1950万円だったが、この種のハードコア限定車の例にもれず、正式リリース直後にすべての予約枠が埋まったそうである。
700台中の1台は、約1655万円で落札!
ミュンヘン郊外のBMW M部門ガルヒンク・ファクトリーからラインオフしたM4 GTSは約700台といわれている。今回RMサザビーズ欧州本社の開催した「Villa Erba」オークションに出品されたのも、そのうちの1台である。
この車両には、当時3300ユーロのオプションで選択できた「フローズン・ダークグレー」のマットペイントが施され、「M」純正の19インチ「LM437」ホイール、パーキングセンサー、そして「プロフェッショナル」ナビゲーション・システムが装備された。
2016年5月20日に「プロカー・ケルン・ヴェスト(Procar Köln-West)」社を介して新車登録され、そののち同年5月31日に初のサービスを受けている。
また、2019年5月17日、2021年6月25日、そしてオークション出品直前の2023年4月18日にも実施されたサービスの詳細が、オークション出品に際して添付される記録簿に記載されており、RMサザビーズ社の公式ウェブカタログが作成された際のオドメーターは、1万9330kmを指していた。
さらに今回の出品にはBMW純正のボディカバーやシャシーのセットアップ調整ツール、レーススペックの消火器、専用カラーのシートベルトなどのオプションも多数含まれていた。
ヴィラ・デステのコンクール本選や、ヴィラ・エルバのコンクール一般公開会場では、主催母体でもあるBMWの素晴らしいクラシックモデルたちが主役ないしはゲストとして登場することに影響を受け、隣接するオークション会場もBMWに対して「座が温まっている」。つまり、財布のひもが緩みやすいとも思われる。
しかし5月20日に行われた競売では、10万3500ユーロ、すなわち日本円に換算すれば約1655万円で落札されることになった。
M4 GTSは、日本国内では30台のみが正規導入された希少車ながら、それでも国内のユーズドカーマーケットでも時おり出回ることがあり、その際には同年代の標準型M4クーペの2倍くらい、新車のときと同じく2000万円近いプライスが設定されているようだ。
また、ヨーロッパでの市況も12万ユーロ~18万ユーロあたりで推移していることを考慮すれば、このオークションにおけるハンマープライスは、なかなかリーズナブルなものだったと思われるのだ。