トヨタの底力を感じさせる理想の86が存在した
初代トヨタ「86」には、GRMNと呼ばれる特別なモデルが存在していた。車両重量1230kgまで軽量化を図り、専用開発のフロントスポイラーやバンパーサイドフィン、リアウイング、リアディフューザーなど特別なパーツでモディファイされていた。エンジンはFA20-GRを搭載し、可変式インテークマニホールドを含めた専用の吸気系、軽量ピストンや低張力ピストンリング、低フリクションピストンピン、低フリクションクランクベアリングを奢る。排気系は完全等長エキマニ&可変バルブ付きマフラーを装着する。何から何までスペシャルな「86GRMN」について、山本シンヤ氏が解説する。
(初出:『XaCAR 86&BRZ magazine特別編集 TOYOTA 86 PERFECT BOOK』)
コンセプトはニュル24時間を戦うレースカーのストリートバージョン
2014年の東京オートサロンに、86がベースのGRMNモデルがお披露目された。「GRMN86コンセプト」と名付けられたモデルは、「GRMN FRスポーツコンセプト」はもちろん、これまで登場したGRMNシリーズとも異なり、ピュアなスポーツカーとしての提案だった。
当時、86のチーフエンジニアだった多田哲哉さんはこのように語っている。
「GAZOOレーシングの活動は“想い”や“メッセージ”の部分でユーザーに伝わっていると思いますが、エンドユーザーに対する“体験”としてはまだまだです。頂点にレース活動があり、GRMN/G’s、量産車とノウハウや技術がシッカリと活かされるように大きく変わる必要があります。そういう意味でも、この86はGRMN/G’sの“第2章”と言える1台です」
86GRMNの開発責任者である野々村真人さんは当時、
「コンセプトはニュル24時間を戦うレースカーのストリートバージョンです。ニュルを“速く”、”気持ち良く”、”素直に”、”安全に”走らせることができるように、レースカーとナンバー付きを並行開発させていきます。86の素性の良さをより活かすクルマにしたいと思っています」
と、あくまでも86の世界感を崩さずにレベルアップさせたモデルであると強調していた。
このモデルと並行開発された2014年ニュル24時間耐久レース仕様の86は、「走る/曲がる/止まる」のバランスが非常に良く、理想のクルマに仕上がったそうだ。実際に本戦ではチームスタッフが「何もないことが怖い」と言うくらい、安定した走行でブッチギリのクラス優勝を飾っている。「このクルマの良さをナンバー付きで再現する」。これが86GRMNの開発における1番の目標となった。
それを実現させるのに特別なマジックなどはなく、車両開発は全て「原理原則」に基づいて行われた。まずシャシーは、低重心化、ボディ剛性/減衰の向上、空力性能向上、ボディコントロール向上、ブレーキ性能&コントロール性向上などがテーマとなった。