86の弱点を克服して徹底した軽量化が図られた
86の弱点のひとつでもあるリアまわりの剛性を引き上げるために、ブレースなどを装着。これは2シーターに割り切ったことで実現できたもので、ねじり剛性や横剛性に大きく影響している。軽量化は不必要なアイテムのはぎ取りや、やみくもに数値を追い求めるのではなく、あくまでも「物理の法則」に則って実施。車体の高い場所にあるボンネット/ルーフ/トランクはカーボン製に変更。さらにサイドウインドウとリアウィンドウはポリカーボネイト製を採用。
フットワーク系は「一般道からニュルブルクリンクまで走る道を選ばず運転に集中ができる」がテーマ。専用サスペンションや専用EPSチューンングなどはもちろん、ニュル24時間レースカーの良さを担っていたスリックタイヤの特性をストリート用タイヤで再現することにも挑戦。専用タイヤ「ポテンザRE‐71R」は、あまりの要求レベルの高さに、ギリギリまでトライ&エラーが繰り返された。
パワートレインは、メーカー系モデルとしては86/BRZ初となる専用チューニングエンジン「FA20‐GR」を搭載。スペック的には200ps/205Nmから219ps/217Nmにアップされているが、それよりもエンジンレスポンスやフィーリング向上、エンジンサウンドなど「ドライバーが感じる部分」を重要視したセットアップとなっている。とくに、ノーマルでは4000rpm前後で谷間のあるトルク特性がフラットになることで、乗りやすいうえに官能的なユニットに仕上がっている。これには、専用ギヤレシオの6速MTや4.3ファイナル、ドライブシャフトの軽量/高剛性化なども寄与しているのは間違いない。
エクステリアは奇をてらわず、すべては「機能」のため。エアロパーツは風洞やCFD解析だけでなく、リアルワールドでのテストドライバーの官能評価によって煮詰められたデザインだという。インテリアはドライビング環境を整えることがテーマで、最後の最後までチューニングを繰り返した専用レカロシートやグリップがノーマルとは異なるステアリング、専用メーターなどを採用している。
これらのアイテムは86の素性を活かしながら、単なるアドオンではなくイチからクルマを開発するのと同じくらいの手間暇がかけられている。86GRMNは単なるチューニングカーと呼ぶべきでなく、「数値ではなく感性を追求」した、86シリーズのトップモデル的な存在と言ったほうがいいかもしれない。
※この記事は2016年のXaCAR 86&BRZ magazine特別編集 TOYOTA 86 PERFECT BOOKの記事をもとに、再編集したものです。表記の数値や肩書きにつきましては、当時のものになります。