公式な博物館は設けず、各種イベントで展開する「出前式」展示に期待
先にも触れたように、ルノーは、これまでに生産したクルマを収蔵展示する企業博物館は用意していません。8年前に訪れたルノー歴史博物館(l’Expo-Musée RENAULT HISTOIRE)は文字通り、ルノーの歴史を示す企業博物館ですが、展示されるクルマはわずかに数台で、自動車博物館と呼ぶには少し物足りなさの残るところでした。
そんなルノーだけに、今回紹介したルノー・クラシックで動態を保って収蔵保管している多くのクルマたちは、なぜ一般の目の届かない場所に置かれたままなのでしょうか? そんな疑問も湧いてきますが、じつは各地のショールームに展示したり、あるいは多くのヒストリックカーが集まるイベントなどで、多くのファンの目に触れていたのです。
ショールームに関してはその最たる存在、パリ市内のシャンゼリゼ通りにあるラトリエ・ルノー(L’Atelier Renault)が有名ですが、残念ながらこちらは現在リノベーション工事の真っ最中。2024年にはリニューアル・オープンするとのことで、これを楽しみに、来年以降パリを訪れることがあったら、ぜひとも顔を出したいスポットとなるでしょう。
一方のヒストリックカーのイベントに関しては、これも今回の取材ツアーの中で大きな目玉となっていたル・マン・クラシックが、その好例です。実際、ル・マン・クラシックのパドックエリアにはルノー・クラシックが広いブースを展開していて、1978年のル・マン24時間レースでポールポジションを奪ったルノー・アルピーヌの「A443」をはじめとして、1952年式の「バルケッタ」や1954年式の「4CVクーペ」などを展示。また展示用テントに隣接のガレージテントでは今回のイベントに参戦する数台の4CVなどがメンテナンスされていました。
ところで、注目したいのは展示スペースに並べられた4台目のクルマ、完全な電気自動車(BEV)として製作され、2023年2月にパリで行われたレトロ・モビルでお披露目されていたルノー「ミュート ザ ホットロッド」です。
レトロ・モビルの際にはまだアルミの地肌がむき出しだったボディは、フレンチ・ブルーに塗られてより現実感を増していました。じつはこのミュート ザ ホットロッドが、新しいルノー・クラシックの方向性を示していたように思われます。
というのも、フラン工場に設けられているルノー・クラシックの「キャンパス」には、ルノー「5(サンク)」の電気自動車や、旧いルノー車をベースに電気自動車にコンバートしたモデルが収蔵されていました。このフラン工場は現在、ルノーにおける電気自動車のすべてを生産していますが、電気自動車の生産そのものは、やがては新しい工場に移管されることが決まっているようです。
そうなるとフラン工場自体の存続も気になるところですが、ルノー・クラシックでは「トゥインゴ」などに対する電気自動車のレトロキット、つまり旧いルノーを最新の電気自動車にコンバートするキットを開発しているとのこと。そしてやがては販売して……、と夢は遥かに広がっていきます。公式的には何ら発表されていないようですがレトロキットの開発(と将来的な販売)は大いに注目したいところです。