GR86のタイヤの美味しいところが使える!
パーツメーカーやスペシャルショップが、自慢のアイテムや技術を惜しみなく投入しているのが「デモカー」。それぞれどんなコダワリを投入しているのか、そして実際のところ、純正スペックと比べて何がどう変わっているのか? チューニングライター加茂 新が試乗してレポート。今回は、TEINの電動リモート減衰力コントローラー「EDFC5」を装着したトヨタ「GR86」をサーキットで走りこみ、ジャーク制御の効果をチェックしてみた。
EDFCの減衰力自動コントロールに加わった「ジャーク制御」
サスペンション専業メーカーのTEIN(テイン)。ストリート用のリーズナブルなサスペンションから、ラリーやスーパー耐久シリーズなど本格的な競技に対応するモデルまで、幅広いラインナップを持つ国産サスペンションメーカーだ。
今回GR86にリーズナブルな車高調整式サスペンションRX1と遠隔自動減衰力機構であるEFDC5を装着したデモカーをサーキットでテストする機会を得た。
まずRX1の説明からするとテインのスポーツ系サスペンションの中でもリーズナブルなモデル。ストリートに主体を置き、車高を下げて乗り心地も快適に街乗りをこなせる。それでいてミニサーキットならば楽しく走れてしまうというのが製品キャラクターだ。構造は複筒式でしなやかさが特徴。もっとスポーツ向けモデルになると単筒式構造となり、よりサーキット走行にも対応しやすいが、あえて複筒式とすることでフリクションが少なく快適な乗り心地を実現している。
そこに組み合わせるのはEDFC5。EDFCは室内から減衰力が調整できるモーターとスイッチのセットで、2014年のEDFC ACTIVE PROからは速度や前後左右のGに応じて、減衰力を強めたり弱めたりする自動調整機構が備わった。
街乗りではソフトな減衰力にしておいて、80km/hを超えたらちょっと引き締めるように設定すれば、高速道路ではフラフラ感を抑えられ、普段は快適な乗り心地を堪能できる。そしてサーキット走行やワインディング走行では、ブレーキGに合わせてフロントの減衰力をアップ。加速Gに応じてリアの減衰力をアップ。左右Gに対してはアウト側のサスペンションのみ減衰力をアップするなど細かく設定できる。たとえばそのようにセットすれば、つねにクルマはフラットな姿勢に近いままを維持しやすく、姿勢変化を抑えたシャープなハンドリングを実現できるわけだ。
2023年1月、EDFC5に進化してさらに新たな制御が加わった、それが「ジャーク制御」。加速度の変化量=ジャーク(躍度、加加速度とも言う)をもとにクルマの姿勢変化を予測してその過渡域に減衰力を強める制御だが、ざっくりと噛み砕いて言えば、コーナリングしようとクルマがロールしていくときだけ減衰力をアップ。ロールが安定してクルマが旋回しだしたら減衰力はもとの数値に戻す制御だ。
これまでの自動調整だと、横Gが発生するとずっと減衰力は強まったままだった。そうなるとロールを抑えたくて横G発生に合わせて減衰力を大きく強くしようと設定すると、コーナリング中の乗り心地がハードだったり、回り込んだコーナーの後半でタイヤの路面追従性がイマイチになることがあった。
それがジャーク制御を使えば、ロール初期のクルマが「グラッと傾くとき」だけ減衰力を強くして、クルマが曲がり始めたら減衰力を抜いてタイヤは路面に追従させ、快適性も失わずにロール初期の大きな動きだけを抑えることが可能になったのだ。
コーナリング中も振動などをうまく逃がしてくれる
では実際、GR86の場合にジャーク制御はどれだけサーキットで効果があるのか。福島県のエビスサーキット・東コースでテストを行った。クルマはGR86でサスペンションはRX1+EDFC5。タイヤはPOTENZA RE-71RS。あとはノーマルという仕様だ。
まずRX1。基本的にストリート主体のモデルなのでかなりソフトな味付けが多いがGR86用はクルマに合わせて適度にシャープにセッティングされている。乗り心地はまったく快適だが、クルマに合わせてスポーティなキャラクターのRX1になっている。
減衰力固定から、EDFC5の設定を前後左右のGとジャーク制御のミックスしたモードにして走行してみる。コーナリングに向けてブレーキをかけるとグッとフロントサスの減衰力が締まって手ごたえが高まる。そこからステアリングを切り込んでいくとシャープにコーナリングしていくが、曲がり始めると減衰力がスッと抜けてソフトになる。最初のひと切りの手ごたえはあるが、コーナリングになると足まわりを緩めて振動などをうまく逃してくれる。
しっかり設定していくと人間の足のようになる
EDFCはベースの減衰力を設定してそこから変化していくので、ベースの数値を変更してみる。ベース値を締めていくとそもそも減衰力が強くなったところからジャーク制御でコーナリング初期はさらに締まる。コーナリング中は設定値に戻っていく。ソリッド感が増したシャープなハンドリングになる。
逆にベース値を緩めていくとやや動きがもっさりとしてくるが、減衰力固定で緩めただけとは大違いでコーナリング時の気持ちよさは維持できる。減衰力のいいとこ取りができるのがジャーク制御の最大の魅力なのだ。
ベース値を強めすぎるとストレートエンドの強いブレーキング時にフロントタイヤが路面に追従しにくくなってくる。そこでベース値はやや緩めにして、ジャーク制御でブレーキングやコーナリング初期だけ減衰力を強めるのがオススメだ。
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標準設定から細かくオリジナルに設定変更できるが、その設定がやや難しいところではある。それでもしっかりと設定すれば、人間の足のようになる。動き始めはしなやかに、深くストロークする時はジワッと受け止める。アスリートの足腰のような動きをクルマに付与できるのはEDFC5だけの特徴だ。このEDFC5の機能とRX1の合計で実勢価格20万円程度で手に入るバリュー感は非常に強いだろう。
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