街にあふれるマンホールだが……
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「マンホールの蓋」です。ご当地のデザインが施されたマンホールの蓋が人気で、写真集も発売されるほど。クルマで走っていれば一瞬で通り過ぎるマンホールの蓋について、あらためて眺めて考察してみました。
ご当地デザインは下水道事業のイメージアップのため
マンホールの蓋が、たいそう注目を浴びていますね。言ってみれば上下水道やガスなどが埋設されている管に出入りするためだけの無機質な「ふた」なのですが、そこに描かれたご当地の絵が個性的だというのです。
たしかにカラフルにペイントされているタイプもあります。ファンも多く、写真集も発売されているというのです。コレクターが収集する気持ちもわからなくはない。オタク文化の象徴ですね。
マンホールの蓋に絵が描かれるようになったのは、昭和60年代のようです。当時の建設省が、下水道事業のイメージアップ、住民に関心を持ってもらうために始めたそうです。
いやはや、市民が独自にマンホールを埋設することはできません。ですから市民の理解を深めようという理由には疑問符がつきます。マンホールペイント化の稟議書の承認を取り付けた企画者の手腕と執念が想像できますね。
ともあれ、後年になってそれが注目されているのですから、面白いものです。今では街おこしのひとつとして活用されています。その代表格を紹介しましょう。
神奈川県・葉山はヨット発祥の地として有名です。先の東京五輪でもヨットレースの会場になりました。ですから当然、モチーフは「ヨット」です。長野県・長野は「五輪」が描かれています。冬季五輪で日本勢が大活躍した地ですからね。
北海道・稚内では、南極観測隊で伝説になった「タロとジロ」です。もちろん2頭は稚内生まれです。北海道・苫小牧もウインタースポーツのメッカですから「アイスホッケー」が描かれています。大阪府・東大阪は花園ラグビー場がありますから「ラグビー」です。
面白いところでは、神奈川県の新横浜駅から横浜スタジアムに向かう通路に、ホームチームである日産マリノスのマスコット「マリノス君」が描かれているそうです。しかも、300mの歩道に29箇所も描かれており、その中のひとつだけマリノス君がウインクしているそうなのです。東京ディズニーランドの「隠れミッキー」のようですね。それを発見すると幸せになるとかならないとか……。
ここまでマンホールの蓋が愛されるようになるとは、当時の建設省の役人も想像はしていなかったでしょう。あるいは予見していたのかもしれません。
念のためにお伝えしますけれど、マンホールの蓋のデザインに気を取られて、下ばかりを見て歩かないようにしてくださいね。くれぐれも事故には注意願います。