セドリック/グロリアが兄弟車としての契りを結んだ初ボディ
日産とプリンスの合併で日本の高級乗用車市場を牽引してきた2車種が兄弟車となった。その第1弾がこの230型である。ボディの共有化はするがそれぞれ個性を持たせている。ボディタイプは2ドアと4ドアのハードトップのほかセダンの3種類。4ドアハードトップは開放感のあるピラーレスで国産車初採用だ。
1960年代の日本の高級乗用車市場を牽引
1959年に誕生したプリンス自動車の「グロリア」と1960年に産声を上げた日産の「セドリック」は、1960年代の日本の高級乗用車市場を牽引してきたクルマである。その主役は、4気筒から直列6気筒エンジンの上質なプレステージセダンへと移り、VIPと呼ばれる人たちはもちろん、大会社の役員や中小企業の社長にも愛されてきた。
時代に先駆けてエアコンやパワーウインドウ、パワーシート、オートドアロックなどの快適装備に加え、3速ATを採用して優雅な走りを披露している。インテリアも、上質な化粧パネルや高級クロスをふんだんに使い、豪華さを競った。
この両雄は、合併劇により兄弟の契りを結ぶことになる。モデルチェンジの機会をとらえ、両車を統合してボディシェルを共用化することにした。その運命の日は1971年2月23日だ。このグロリアとセドリックの両方が型式「230」になった。
だが、まったく同じクルマになったわけではない。外観ではボンネットのプレスラインやフロントグリル、リアガーニッシュ、リアコンビネーションランプなどのデザインが微妙に異なっている。また、バリエーションも差別化が図られた。フォーマルな4ドアセダンが主役だが、新たに2ドアハードトップを送り込み、セドリックにはリアゲートを備えた5ドアのワゴンが用意されている。
エクステリアは、伸びやかなフォルムだ。ストレート基調のシャープなラインに抑揚のあるコークボトルラインを組み合わせ、5ナンバー枠をいっぱいまで使うことで押しが強く、見栄えもいい。とくに角形2灯式ヘッドライト採用の2ドアハードトップはダイナミックだ。
1972年8月には日本初のピラーレス4ドアハードトップを仲間に加えた。躍動感あふれ、しかも上品なシルエットは好評を持って迎えられている。グロリアは、先代のA30系から十字をモチーフにした華やかなフロントマスクを受け継いだ。
L型直列6気筒をメインに据えたエンジンラインナップ
パワーユニットは2機種を用意している。主役は排気量1998ccのL20型直列6気筒SOHCエンジンだ。日産としては初めてのSOHCエンジンで、ロッカーアームを直接カムシャフトが動かし、バルブを駆動する。ビッグボア設計の2Lエンジンで、ボアは78.0mm、ストロークは69.8mmだ。
量販の要となるシングルキャブレターの仕様は、最高出力115ps/5600rpm、最大トルク16.5kgm/3600rpmを発生する。SUツインキャブ装着のGXは130ps/6000rpm、最大トルク17.5kgm/4400rpmのスペックだった。L20型のほか、セダンのスタンダードにはH20型直列4気筒OHVを用意している。
1972年10月には、撮影車に搭載されているL26型直列6気筒SOHCエンジンが加えられた。「フェアレディ240Z」に積まれているL24型エンジンのストロークを5.3mm延ばして2565ccにしたエンジンで、シングルキャブを組み合わせている。輸出を意識してかレギュラーガソリン仕様で、最高出力140ps/5200rpm、最大トルク22.0kgm/4000rpmを発生した。
トランスミッションは4速と5速のマニュアルが用意され、意外にもこの時代はハードトップシリーズでも選択可能だった。当然、ATも用意されている。こちらは3速タイプで、それまでのコラムATもあるが、流行の先端を行くT字レバーのフロアセレクターが自慢だった。
プラットフォームで注目されるのは、この230セドリック/グロリアからインチネジが廃され、ミリ単位のネジに変わったことだ。ただし、リンケージ型のパワーステアリングは依然としてインチネジだった。サスペンションは、フロントがダブルウィッシュボーンにコイルスプリング、リアはリーフスプリングによるリジッドアクスルとなっている。
ブレーキは、リアはリーディングトレーリングだが、フロントはスタンダード以外がディスクだ。上級グレードには急制動のときに減速度を感知して、リアの制動力を絶妙に調整するGバルブを装備している。挙動の乱れを防ぐ安全装備だが、次の330セドリック/グロリアではPバルブへと進化した。
最新の安全装備と贅を凝らしたインテリア
日産の最高級クラスでメーカーの顔ということもあり、インテリアはゴージャスなしつらえである。日産が好んでいた絶壁型のダッシュボードで、広がり感の強い水平基調だ。助手席側までメーターパネルが延び、ドライバーの前には四角いコーンの奥まったところにタコメーターやスピードメーターを収めている。大型の3眼タイプで、色味もカラフルだ。
シートは大ぶりで、表皮も高級な素材をおごっている。ハードトップは高級パーソナルカーのため内装の色味にもこだわり、木目の化粧パネルもメーターまわりだけでなくコンソールにも使っている。後席のシートもゆったりした造りだ。
セドリックとグロリアのハードトップは、最上級オーナーカーだから快適装備と安全装備は充実している。前期モデルのハイライトは、シーケンシャルウインカーが用意されていたことだ。2ドアハードトップGXには標準で、リアコンビネーションランプがウインカーを含めて赤色レンズのため、ウインカーとわかりやすくするために曲がる方向へ光が流れていくように点滅した。
また、オーナーを感激させた装備がリモコンミラーだ。セドリック/グロリアと「プレジデント」だけの優越感に浸れる装備だった。だが、電動式ではなくワイヤー式だ。スティック型のノブで鏡面を動かす。
GXとGLに装備されたテールランプモニターも話題をまいた。テールランプやブレーキランプの球切れを確認できるモニターで、リアシートの後ろのトレイ上に装備されている。球が切れているとモニターが光らないので、ルームミラーを通して確認することが可能だ。ただし、夜間でないと判断するのは難しい。
また、オーバーヘッドコンソールや後席のセンターアームレスト、シガーライター、マップランプなど、便利な装備を散りばめた。日産車で初採用の接着ウインドウも風きり音の低減に大きく貢献している。宿敵クラウンを打ち負かした実力派のハードトップが、この「230」だ。
グロリア4ドアハードトップ2600GX(230)
・年式:1973年
・全長×全幅×全高:4690mm×1690mm×1420mm
・ホイールベース:2690mm
・車両重量:1385kg
・エンジン:L26型直列6気筒SOHC
・総排気量:2565cc
・最高出力:140ps/5200rpm
・最大トルク:22.0kgm/4000rpm
・変速機:3速AT
・サスペンション(F/R)ダブルウイッシュボーン・コイル/リーフリジッド
・ブレーキ(F/R)ディスク/リーディングトレーリング
・タイヤ:6.95-S14 4PR(チューブレス)
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