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「チンクエチェント博物館」が日本にフィアット500を上陸させはじめた理由とは【週刊チンクエチェントVol.12】

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TEXT: 嶋田智之(SHIMADA Tomoyuki)  PHOTO: 嶋田智之/チンクエチェント博物館

「チンクエチェントを保護・保存するのが僕たちの役目」

「今まで20年間ずっと私設博物館としてやってきて、クルマの販売って考えたことなかったんですよ。その前に別のクルマの事業もやってきてて、博物館っていうのはお金の匂いがしたらダメだなって、始めるときから思ってたから」

なのに、いきなり思い立ったようにイタリアで状態がいい個体からボロボロの個体までたくさん買いつけて、現地で仕上げて日本に入れるっていう面倒なことをするようになったのは、なぜなんですか?

「ぶっちゃけ、コロナ禍です(笑)」

えええ!? コロナ禍?

「そう。銀行が雇用を確保しないといけない、企業を潰したらいけないっていうことでいろいろやったわけですけど、あるときそんなに懇意にしてたわけでもない銀行の若い営業マンが来て、借りろって(笑)。借りたら返さなきゃならないからイヤだって言ったんですけど、返済はしばらく据え置きだし金利もすごく安いし使わなければ戻せばいいじゃないですか、みたいに言うんで。銀行も変わったな、ということはコロナは皆によっぽど打撃を与えてるんだな、と思って。で、あんまり借りたくなかったし使い道もなかったけど、そんなにデメリットはなかったから〇〇万円借りたんですよ」

えええ!? そんなに?

「そう(笑)。でもちょうどそんな頃に“古いチンクエチェントが欲しいんだけどなかなかいいクルマがない”っていう声をいくつか聞いて、そういえば、って思い出したんです。チンクエチェントを展示していろんな人に見てもらうだけじゃなくて、保護・保存するのが僕たちの役目でもあるな、って。

でも、さっき言っていたような気持ちがあったから、普通に輸入して普通に売るクルマ屋さんみたいなことをするのには抵抗があった。変な言い方だけど、向こうでボロを買うっていうのは楽しいし、直してやるのも楽しい。そのままだと朽ち果ててイタリアの土に還っちゃうようなチンクエチェントをちゃんと直して、日本で保護犬や保護猫の里親探しをするみたいな視点だったら自分自身を許せるかな、と思ったんです。ちゃんと直っていれば価値を取り戻せるし、普通の中古車と違って相場もまず下がることはないし、良いかたちで乗り継がれていって良いかたちでの保護・保存にもつながるわけだし。

深津君にはそんなボロ買うなって叱られるけど。まぁそんな感じです。だから質問に対する答えは、コロナ禍のおかげでたまたまお金ができたから(笑)」

いやいや。伊藤さん御自身があんまりカッコいいようなことを言うのが好きじゃない性格なのは長年おつきあいさせていただいてきて理解してるのだけど、なるほど、わかった。イタリアには長年のネットワークがあるから、これまで知人に頼まれてクルマの輸入の手伝いとかをしたことはあっても、自動車販売業のような展開をまったくしてこなかった理由、そして思い立ったように現地のチンクエチェントを買い集め、直し、日本に上陸させることをはじめた理由。どちらもすんなり納得できて、ワケもなくすっきりした気分だった。

「でも、いざ始めてみたらイタリアと仕事をするのは本当に大変で……」という苦労譚こそが御本人たちはともかく最も楽しかったところなのだけど、そのあたりは博物館を訪ねて伊藤さんや深津さんに訊ねたら、聞かせていただくことができると思う。

ちなみにチンクエチェント博物館はSNSや公式サイトで販売できるクルマの情報やそれぞれのクルマの作業の進行状況などを公開してるので、ぜひともそちらを見にいってみてほしい。いや、それがまた見てるだけで結構おもしろいのだ。

じつはつい最近もチンクエチェント博物館に寄らせてもらったときに、伊藤さんが「これを見て、おーっ! とまた思ったんですよ。僕がやりたかったのはこれだったんだ、これをやらなきゃ博物館じゃないよなって」という言葉とともに、何枚かの写真を見せてくださった。それが今回のメインカットの、ほぼ朽ち果てる寸前みたいなチンクエチェントだ。

僕が絶句して椅子から転がり落ちそうになったのは言うまでもない。

■協力:チンクエチェント博物館

■「週刊チンクエチェント」連載記事一覧はこちら

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  • 嶋田智之(SHIMADA Tomoyuki)
  • 嶋田智之(SHIMADA Tomoyuki)
  • 『Tipo』の編集長を長く務め、スーパーカー雑誌の『ROSSO』やフェラーリ専門誌『Scuderia』の総編集長を歴任した後に独立。クルマとヒトを柱に据え、2011年からフリーランスのライター、エディターとして活動を開始。自動車専門誌、一般誌、Webなどに寄稿するとともに、イベントやラジオ番組などではトークのゲストとして、クルマの楽しさを、ときにマニアックに、ときに解りやすく語る。走らせたことのある車種の多さでは自動車メディア業界でも屈指の存在であり、また欧州を中心とした海外取材の経験も豊富。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
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