人と人を笑顔でつなぐ不思議な乗り物、トゥクトゥク
東南アジアに行くとたくさん走っている3輪の乗り物、トゥクトゥク。じつは日本でも乗っているファンが多く存在します。幕張メッセで有名な千葉市の幕張エリアでは最近、トゥクトゥクがビーチクリーン活動などさまざまなシーンに出動して地域おこしにひと役買っているとのこと。さっそく話を聞きに行ってみました。
旅先のタイでトゥクトゥクに惚れて今では7台所有
千葉県匝瑳市で事業を営む石田裕一さんは25歳のときにタイに旅行した。そして、そこで出会った乗り物に目が釘付けになった。
「街を走っているトゥクトゥクを見て、こんなに素晴らしいクルマがあるのかってビックリしたんです」
独特の外観はもちろん、知らない人たちが気軽に乗り合うタクシーという存在が心に響いた。
「いつか、自分でも所有してみたいな、と思いました」
その思いが叶ったのは、今から5年前。沖縄でトゥクトゥクを輸入している業者を通じて、最初の1台を購入した。最初は自分の家のまわりで、ただ乗り回しているだけだったが、トゥクトゥクを見る人たちの反応を見て、徐々に気持ちが変わっていった。
「トゥクトゥクを見ると、みんな笑顔になるんですよ。これで何か、人に喜んでもらえることはできないか、と考えるようになりました」
最初は、近所の子どもたちを無料で乗せて走ることから始めた。すると次第にイベントから声をかけてもらうようになり、「出演」依頼が急増。気がつくとトゥクトゥクが増え、今は7台のトゥクトゥクを持つまでになった。
中学の同級生、ビーチクリーン活動と輪が広がっていった
2022年、夏。石田さんとトゥクトゥクに、ひとつの出会いがあった。
「千葉市幕張のイオンモールでタイフェスティバルがあって、トゥクトゥクを出展していたんです」
そこに、たまたま犬の散歩で通りがかったのが、幕張ベイタウンに住む佐藤 敦さんだった。ふたりは中学の同級生だったが、長年、顔を合わせることはなかった。つまり、偶然の再会だった。タイフェスでトゥクトゥクを見た佐藤さんもまた、この奇妙なクルマの魅力にひと目惚れ。そして、石田さんと同様に、トゥクトゥクで人を喜ばせたい、という気持ちになった。フードトラックなどのビジネスを営む佐藤さんはこう語る。
「幕張メッセやマリンスタジアムに来る人は多いんですけど、みんなそれだけで帰ってしまいます。なんとかベイタウンや幕張のビーチの楽しさを知ってほしいと、以前から思っていたんです」
同年10月、佐藤さんは石田さんからトゥクトゥクを1台借り受け、ベイタウンの中を走り始めた。そして、商店街の振興組合に入って、今後の展開について話していると、「アクアドリームプロジェクトに相談してみたら?」というアイデアが出た。アクアドリームプロジェクトは、SDGs目標14番を推進するために幕張の浜でビーチクリーンを企画運営するNPO法人で、水族館の誘致などを目標に掲げている。当たって砕けろの覚悟で門を叩いた。
「アポもなしに、Tシャツと短パンで副代表の藤井さんを訪ねたんです。そうしたら、意外にも(笑)、ぼくのことを受け入れてくれて……」
と佐藤さんは振り返る。藤井力也副代表、アクアドリームプロジェクト代表理事・小亀さおりさんが中心となって、トゥクトゥクを幕張の顔にしようという取り組みが動き始めた。
「アクアドリームプロジェクトでは、毎月第2土曜日にビーチクリーンを行っています。そのときのホテルからビーチまでの足にトゥクトゥクを使っています。乗った人の反応ですか? まさに感動です! あれに乗ると誰もが、本当に笑顔になるんですよ」(小亀さん)
想像以上に小回りがきくのでシティコミューター的にも活躍OK
さて、気になるのはトゥクトゥクの機関や登録だ。さぞや面倒な手続きが必要かと思いきや、「沖縄トゥクトゥク株式会社」という便利な専門店があるという。タイの現地工場でダイハツ「ハイゼット用」660ccエンジンに乗せ換え、コンプリートで輸入してくれるのだ。まったく知らなかったが、すでに数百台のトゥクトゥクが日本国内にあるそうだ。
車検上の登録は側車付二輪自動車。つまり、サイドカー付きのバイクと同じ扱いになる。サイドカーの定義は「オートバイの側方に車体をつけた変則的な三輪車」。トゥクトゥクもこれに準じた扱いになる。免許は普通自動車免許でOK。シートベルト不要、ヘルメットも不要という、リゾート感を味わうには好都合な法規になっている。
「運転してみませんか?」と言われたので、さっそく運転席に。シフターを跨ぐように乗り込み、ステアリング・バーを握ると気分はすっかりタイのトゥクトゥク・ドライバーだ。小回りもきくし、意外と加速もいい。空荷でスロットルを全開にすると90km/hくらい出るという。これは面白い!
「最近は、トヨタ・ディーラーのオープニングセレモニーによく呼ばれます。大阪のレインボーフェスタでは、1500人のパレードを先導しました。トゥクトゥクなんて意味のないことかもしれませんけど、それを続けていると、きっと何かが生まれるんじゃないかと思っています」
と石田さんは笑顔で語るのだった。