軽自動車の常識を覆す低く美しいクーペスタイル
一般的な軽自動車は、限られたボディサイズの中でスペースを作り出そうと努力する。ところがスズキ「フロンテクーペ」は、デザイン優先と言っても過言でないスタイリッシュクーペだ。デビュー当初は「ふたりだけのクーペ」と割り切り、2シーターモデルで登場した。さらにその美しいフォルムには、スズキ独自の技術が集約されていたのだ。
つねに新たなるものに挑戦するスズキならではの提案
スズキ(当時は鈴木自動車工業)はトヨタ「クラウン」の誕生と同じ1955年にFF方式の「スズライト」を発売したことからわかるように、進取の気性に富む自動車メーカーだ。スズライトの心意気を継ぐ軽乗用車の野心作が1967年6月に登場した「フロンテ」だ。高効率パッケージのRR方式に生まれ変わり、パワーユニットも独創的だった。軽自動車初の3気筒で、クランクシャフトは7個のメインベアリングで支持するなど、こだわった設計思想が感じられる。
その第2世代は1970年10月に登場した。スティングレイ・ルックのフロンテだ。デビュー時は空冷2サイクル3気筒だったが、1971年5月に軽自動車初のデュアルラジエターを装備し、吸気系をリードバルブとした水冷のLC10W型3気筒エンジンが加わる。ボア52.0mm、ストローク56.0mmで、排気量は356ccだ。1970年代、FJ/FLレースなどで多くのドライバーに愛された2サイクルエンジンの傑作である。
同年9月、このエンジンを積んだマイクロスポーツクーペの「フロンテクーペ」が登場。軽自動車とは思えないほど低く、美しいクーペフォルムに人々は驚かされた。ジョルジエット・ジウジアーロが基本デザインを描き、スズキのデザイナーが仕上げたのだ。ノーズだけでなく、全高も1200mmと低い。「ふたりだけのクーペ」のキャッチフレーズからわかるように、最初は2シーター。1972年3月に待望の2+2モデルが加わっている。
リアに搭載されるLC10W型水冷2サイクル3気筒エンジンには1気筒ごとに1基、計3基のCVキャブを装着した。最高出力37ps/6500rpm、最大トルク4.2kgm/6500rpmを発生し、これに4速MTを組み合わせている。
最高速度は120km/h、0-400m加速タイムは19秒47。独特のサウンドを奏でながらダイナミックな加速を見せつけた。サスペンションは、フロントがダブルウィッシュボーン、リアはトレーリングアームの4輪独立懸架だ。