後進のセルボにも継承された魅力的な流麗フォルム
フロンテクーペは、エクステリアだけでなくインテリアもワクワクさせるデザインだ。背伸びして上級クラスと張り合っているかのようだが、デザイナーの意気込みが伝わってくる。ドアを開けると、目に飛び込んでくるのは軽自動車とは思えない存在感を放つダッシュボードだ。センタークラスターまでを一体にデザインし、コンソールの部分までしっかりと作り込んでいる。6つの丸形メーターを組み込み、メーターは光が入らないようコーンの中に収めている。スピードメーターは140km/h表示、タコメーターは1万回転まで刻まれ、よく使うゾーンは見やすいように中央寄りとした。
ステアリングは3本スポークで、中央には大ぶりのホーンパッドが付いている。驚いたことにチルト機構が装備されており、上下に57mm調整することが可能だ。シートはヘッドレスト一体のハイバックシートを2脚並べる。2シーターモデルは後ろが小物を置けるパーシャルトレイだが、1972年2月に加わった2+2のGXFは狭いながらも後席があり、子どもなら何とか座れた。
1972年は積極的にバリエーションを拡大し、4人乗りのGXFを発売した1カ月後、34psにディチューンしたエンジンを積むGXPFを投入。6月にはさらにパワーを下げ、装備を削ったエントリーモデルを設定している。また、前輪ディスクブレーキ装備のGXCFも加わった。
バリエーションを増やした直後、フロンテクーペは2+2だけに絞り込まれ、2シーターモデルは整理されている。オイルショックに見舞われ、排ガス規制も厳しくなったため1974年には35psにパワーを下げ、2グレードに絞った。軽自動車は冬の時代を迎えたために1976年に生産と販売を打ち切っている。
だが、1977年10月に新軽自動車規格に合わせた「セルボ」が登場されたのは、そのスタイルの魅力が色褪せていなかったからだろう。道行く人を振り返らせるほどキュートで、走りの実力も高かった粋なスモールクーペがフロンテクーペだった。
フロンテクーペGXF(LC10W)
・年式:1972年
・全長×全幅×全高:2995mm×1995mm×1200mm
・ホイールベース:2010mm
・車両重量:500kg
・エンジン:LC10W型2サイクル直列3気筒
・総排気量:356cc
・最高出力:37ps/6500rpm
・最大トルク:4.2kgm/6500rpm
・変速機:4速MT
・サスペンション(F/R)ウイッシュボーン・コイル/トレーリングアーム・コイル
・ブレーキ(F/R)リーディングトレーリング/リーディングトレーリング
・タイヤ:135SR10
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