2ドアクーペからスポーツワゴンまで多彩なラインナップ
マツダのロータリーエンジン搭載車第5弾として登場した初代「サバンナ」。1970年代に排ガス規制によって各車がパワーを落としていくなか、パワフルでコンパクトが特徴のロータリーエンジンによって、その魅力を失うことなくパフォーマンスとクリーン性能を両立していた1台である。
ロータリゼーション政策に則り、全ボディタイプがRE搭載車のみ
「コスモスポーツ」によって華やかにロータリーエンジン(以下RE)の扉を開いた東洋工業(現・マツダ)は、第2弾として「ファミリア ロータリークーペ」を送り出した。これに続いたのが、時代に先駆けてFF方式を採用した美しいフォルムの「ルーチェ ロータリークーペ」である。
そして東洋工業の創立50周年の節目となる1970年に、「カペラ」を市場に放った。東洋工業は次の50年に向けてRE搭載車を主役の座に据え、ロータリゼーションの時代を築こうと意気込んだ。カペラに搭載する主力のパワーユニットが新設計の12A型2ローターREである。10A型REをベースに、ローターハウジングの厚みを増し、容積を82cc増やした。
このカペラに続くREシリーズの第5弾が「サバンナ」だ。発表されたのは1971年9月である。ファミリア ロータリークーペの事実上の後継で、RE専用モデルとして開発された。ボディタイプは、4ドアセダンと精悍なルックスの2ドアクーペが用意されている。登場から4カ月後の1972年1月、時代の先をいくスポーツワゴンを追加した。
カペラまでのRE搭載車は、いずれも優雅なムードを醸し出している。だが、サバンナはアグレッシブな出で立ちだ。精悍な面構えで、ボンネットの先に中央を尖らせたFRP製のノーズピースを被せている。グリルが前にせり出しているからデュアルヘッドライトは奥まった位置に取り付けられた。
セダンはオーソドックスな3ボックスフォルムだが、クーペは躍動感あふれ、伸びやかなスタイルだ。サイドウインドウとリアクオーターピラーは弓を引き絞った筋肉質のアーチェリーカーブを描いている。
フロントビュー以上にアクの強いデザインなのがリアビューだ。リアウインドウの左右にスリットを刻んだ換気用のエアアウトレットは、強い存在感を放っていた。リアコンビネーションランプは、おむすび型のロータリーをイメージした丸形ランプを3つずつ並べ、中央に赤いガーニッシュを配している。高性能エンジンを搭載しているため、タイヤは専用に設計された偏平率78%のチューブレス、Z78‒13‒4PRが標準だ。
ちなみに1973年6月にマイナーチェンジでフェイスリフトを行った。長方形のグリルはワイドなU字型デザインとなり、上にクロームのラインを引いている。最終型ではバンパー下にリップスポイラー的なデザイン処理を施した。
リアコンビネーションランプも1973年に丸形を3つ並べたものから六角形の4灯タイプに変更されている。市場から酷評された赤いリアガーニッシュも、落ち着いたダークグレーに変更された。
10Aエンジン搭載のサバンナがハコスカの連勝記録を止めた
サバンナに用意されたパワーユニットはコスモスポーツとファミリア ロータリークーペで実績を積み、細かい改良によって熟成の域に達した10A型2ローターREだ。単室容積491ccの2ローターだから総排気量は982ccとなる。ローターの回転運動でパワーを取り出す構造ゆえモーターのようになめらかで、高回転まで回しても驚くほど静かだ。
アイドルリミッター付き2ステージ4バレルキャブレターはベンチュリー径とジェット径を拡大。軽合金ローターハウジングは3孔式排気ポートを採用した。また、電極突出型の点火プラグの採用もあり、最高出力は105ps/7000rpm、最大トルクが13.7kgm/3500rpmと従来より向上した。
トランスミッションは4速MTで、最高速度はクーペが180km/h、セダンは175km/hだ。0‒400m加速タイムは16.4秒。セダンのGRはファミリーカー然としたたたずまいの目立たないクルマ。しかし侮ると痛い目に遭うという、まさに通好みの羊の皮を被った狼だった。1971年1月にREマチックと名付けた3速ATを世界初採用する。
サスペンションはフロントがストラット&コイル、リアはリーフスプリングによるリジッドアクスルだ。リアにバイアスマウント方式を採用することで、REパワーに負けない足まわりが完成した。ブレーキはフロントがディスク、リアはリーディングトレーリングだ。
1972年9月、クーペGSの上にGTを設定した。これは北米向けのマツダ「RX‒3」の日本仕様だ。エンジンはローターハウジングの厚みを10mmやし、単室容積573ccとした12A型2ローターREを搭載する。排気孔をハニカムポートとし、トルク特性を大きく改善した。最高出力は120ps/6500rpm、最大トルクも16.0kgm/3500rpmに引き上げられている。
トランスミッションは5速MTのみを設定する。最高速度は190km/hになり、0-400m加速タイムは15.6秒だ。サバンナはサーキットでも群を抜く速さを見せ、10A型エンジンを積んだサバンナが、1971年12月の富士ツーリストトロフィーでC10型「スカイラインGT-R」を破り、50連勝を阻止する大金星。1972年5月の日本グランプリでもRX-3とカペラのロータリー勢が表彰台を独占した。
コスモスポーツから継承したT型ダッシュボードデザイン
サバンナのインテリアは、コスモスポーツからの流れを汲むT型ダッシュボードを受け継ぎながら、さらに上質感とスポーティムードを高めている。ドライバーの前に大径スピードメーターとタコメーターを据え、センターコンソールに角形デザインのコンビネーションメーターと時計を組み込んだ。彫りの深いメーターだから視認性も優れている。
ステアリングは3本スポークのスポーティなもので、中央のホーンボタンにはロータリーマークが付く。だが、セダンGRなどの後期モデルではおとなしいデザインになり、ロータリーマークも省略されるようになった。
レースデビューの方がひと足早かったRX‒3は、マツダ初のGTを名乗って1972年9月に発売された。インパネの基本的なレイアウトとデザインは他のグレードと同じだ。立体的で、彫りが深いが、ブラック一色のスポーティな仕立てとし、センタークラスターの3連補助メーターは四角から丸形デザインに変わった。また、センターコンソールも刷新。手元に伸びているシフトレバーには、もちろん5速MTの表示がされていた。
GTの投入により、モータースポーツでの勝利が多くなった。モデル末期の1976年5月のJAFグランプリでは、単一モデルとして通算100勝を達成。これは日本のモータースポーツ史に残る快挙だ。またアメリカの伝統レースであるIMSAシリーズでも大暴れした。
1973年から排ガス規制が厳しくなり、自動車メーカーはその対策に追われるようになる。スポーツモデルは軒並みパワーダウンし、精彩を欠くようになった。だが、REは難なく排ガス規制をクリア。7月には10A型エンジンを整理し、エンジンは12A型REだけに絞り込んでいる。このとき昭和50年規制をクリアしたサバンナAPを追加した。
1975年には昭和51年規制もパスしたが、苦闘するライバルを尻目に、サバンナは125ps/16.5kgmにパワーアップ。REだからこそなせる技だった。高性能とクリーン性能を両立させ、REの潜在能力の高さを証明している。1970年代の排ガス規制のなかで輝きが増した数少ないスポーツモデル、それがサバンナだ。
サバンナGT(S124A)
・年式:1974年
・全長×全幅×全高:4075mm×1595mm×1355mm
・ホイールベース:2310mm
・車両重量:970kg
・エンジン:12A型2ローターRE
・総排気量:573cc×2
・最高出力:125ps/6500rpm
・最大トルク:16.5kgm/4000rpm
・変速機:5速MT
・サスペンション(F/R)ストラット・コイル/リーフ・リジッド
・ブレーキ(F/R)ディスク/リーディングトレーリング
・タイヤ:175/70SR1
■「国産名車グラフィティ」記事一覧はこちら