スポーツセダンの歴史的傑作は、時代を超えた完成度でした
今回の「旧車ソムリエ」コーナーで取材させていただいたのは、クラシカルで可愛い丸型テールランプを持つ、前期型の1972年式2002tii。かつて京都の著名なエンスージアストの元にあったものが、ポルシェ「906」やBMW「M1グループ5」を擁してクラシックカーレースに参加していた、さるレーシングチームを主宰する有名な愛好家の手に渡り、そして現在の若きオーナー松井大祐さんに譲られたものである。また、某名門模型メーカーから発売された1/24プラスチックモデルが開発された際には参考車両としても供用されるなど、こと来歴の面では申し分のない2002tiiといえよう。
そして、そのヒストリーにふさわしく、現在でも素晴らしいコンディションにあることが、今回のテストドライブでも証明された。
まずは居心地の良いコクピットに収まってドアを閉めると「カンッ!」という、いかにも精度の高そうな音がする。「ボディ剛性」という要素が現在ほど重要視されていなかった時代のクルマながら、ボディ全身にみなぎる剛性感はじつに頼もしいものである。
はやる気持ちを抑えつつイグニッションキーをひねると、少し長めのクランキングを経て一発始動。これはインジェクション車の長所であろう。そして、これまた剛性感に富んだタッチのシフトレバーを1速に入れて走り出すと、1010kgというウェイトの軽さ、そして名機M10型4気筒SOHCエンジンのトルクフルな特性が早々に実感される。
スロットルの踏み加減に応じて、エンジンは鋭く反応。とても気持ちよく加速してゆく。速さも時代を超えたもので、現代の幹線道路でも交通の流れをリードするのは、まったくもって容易なことだ。
また、新車当時ライバルといわれていたアルファ ロメオ「2000GTV」や、同じマルニでも2002tiのような2連装キャブレターの野性的な吸気音はないものの、こちらのちょっと機械的な吸気音も魅力的。精度の高さを感じさせる排気音に、同じく緻密な吸気音が折り重なり「クォォーンッ!」と轟く健康的な4気筒サウンドは、なんともいえず気持ちよい。
そしてフロントがマクファーソン・ストラット、リアがセミトレーリングアームという4輪独立懸架がもたらすサスペンションチューンも秀逸なもの。ノンパワステゆえに据え切りや微速域では若干重いが、ひとたび走り出せば極上のステアフィールをもたらすラック&ピニオン式ステアリングの正確性も相まって、ハンドリングも時代のレベルを超えたものだった。
この日の試乗コースである国道1号線、箱根に向かう高速コーナーや、旧道のタイトコーナーであってもまったく姿勢を崩すことなく、軽めのアンダーステアをともないつつ、じつにスムーズなコーナリングマナーを見せたのだ。
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もしも、なんらの予備知識もなくこのクルマのドライバーズシートに座ったなら、これが1960年代に端を発する正真正銘の旧車であることには、なかなか気づけないレベルのカッチリ感と精密感に、ドライビングの楽しさも兼ね備えている。
そしてなにより、マニュアル車を運転できるドライバーなら誰しも難なく走らせられる、圧倒的な乗りやすさを体感したことによって、BMW 2002tiiが時代を超えた傑作であることを今いちど実感できたのである。
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