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BMW「3シリーズ」の祖先「2002tii」の実力は? 時代を超えて「高性能」を体感させてくれる傑作でした【旧車ソムリエ】

1972年型BMW 2002tii

「クラシックカーって実際に運転してみると、どうなの……?」という疑問にお答えするべくスタートした、クラシック/ヤングタイマーのクルマを対象とするテストドライブ企画「旧車ソムリエ」。今回はBMWの歴史的名作「マルニ」こと「2002」の高性能バージョン「2002tii」のドライブインプレッションをお届けしよう。

ノイエ・クラッセの2000tiiで初採用されたインジェクション

今から約60年前、実質的な破綻状態に陥っていたBMWを、1台の傑作車「ノイエ・クラッセ」こと「1500」が救い上げたというストーリーは、BMWの熱心な愛好家にとっては、とても有名なものだろう。

1961年秋のフランクフルト・ショーにてデビューを飾った1500は、のちに排気量を拡大するなどの進化で、1964年には「1600」および「1800Ti」が登場。さらに1966年には1991ccユニットを搭載した上級モデル「2000/2000Ti」も設定されるが、ここで最も注目すべきは、1969年に2000Tiに代わって登場した「2000tii」だ。

航空機エンジン用、あるいはレーシングマシン用の燃料噴射システムでは、すでに確たる実績を挙げていたBMWが、初めて市販ロードカーにフューエルインジェクションを採用したモデルである。

どちらかといえば旧式なメカニカルポンプ式燃料噴射であるクーゲルフィッシャー社製インジェクションは、1962年にはすでに「プジョー404」に採用されていたほか、当時はまだライバルではなかったメルセデス・ベンツは、ディーゼルエンジン用燃料供給システムから着想した独自のインジェクションを1950年代から商品化していた。つまり自動車用燃料噴射では、BMWは決して先駆けではなかったのだが、2000tiiはスポーツセダンの先駆者でもあるBMWの名にふさわしい、高性能な1台となっていた。

現在の3シリーズに至る道筋を築いた名車2002と燃料噴射の組み合わせ

いっぽう、時代が少しだけさかのぼる1966年。BMWはノイエ・クラッセの優れた資質を生かした小型でスポーティなモデル、1600のボディを1クラス縮小したコンパクトな2ドアセダンとして「1600-2」をデビューさせていた。この小型ボディに2Lユニットを搭載したのが、1968年1月に登場した名作「2002」。そしてその高性能版として、2基のソレックス社製キャブレターで120psにチューンした「2002ti」が、同じ年の9月に追加設定されていた。

さらに、2000tiiで燃料噴射の実用化に成功していたBMWにとって、2002にその心臓部を組み合わせるというアイデアは、極めて自然なものというべきだろう。果たして1971年には、2002tiの後継車として、クーゲルフィッシャーPL04型インジェクションを装着したモデル「2002tii」が誕生したのだ。

2002tiiは、インジェクション装備に加えて10.0:1まで高められた圧縮比も相まって130psのパワーと18.1kgmのトルクを発生。その最高速度は190km/hに達した。

くわえてサスペンションは2002tiと同じく、リアのトレーリングアームを閉断面型に強化。前後スタビライザーも追加して締め上げられた。ブレーキもフロントのディスク径をスタンダード2002の240mmから256mmに拡大。リアのドラム径も200mmから230mmに拡大するなど、シャシーについても格段にブラッシュアップが施されていた。

かくしてデビューに至ったBMW 2002tiiは、セールス面で大きな成功を獲得しただけでなく、当時の自動車メディアや識者からも極めて好意的に受け入れられることになる。そして、1970年代前半における世界最良のスポーツセダンのひとつとして、今なお世界中のエンスージアストの敬愛を集めているのである。

スポーツセダンの歴史的傑作は、時代を超えた完成度でした

今回の「旧車ソムリエ」コーナーで取材させていただいたのは、クラシカルで可愛い丸型テールランプを持つ、前期型の1972年式2002tii。かつて京都の著名なエンスージアストの元にあったものが、ポルシェ「906」やBMW「M1グループ5」を擁してクラシックカーレースに参加していた、さるレーシングチームを主宰する有名な愛好家の手に渡り、そして現在の若きオーナー松井大祐さんに譲られたものである。また、某名門模型メーカーから発売された1/24プラスチックモデルが開発された際には参考車両としても供用されるなど、こと来歴の面では申し分のない2002tiiといえよう。

そして、そのヒストリーにふさわしく、現在でも素晴らしいコンディションにあることが、今回のテストドライブでも証明された。

まずは居心地の良いコクピットに収まってドアを閉めると「カンッ!」という、いかにも精度の高そうな音がする。「ボディ剛性」という要素が現在ほど重要視されていなかった時代のクルマながら、ボディ全身にみなぎる剛性感はじつに頼もしいものである。

はやる気持ちを抑えつつイグニッションキーをひねると、少し長めのクランキングを経て一発始動。これはインジェクション車の長所であろう。そして、これまた剛性感に富んだタッチのシフトレバーを1速に入れて走り出すと、1010kgというウェイトの軽さ、そして名機M10型4気筒SOHCエンジンのトルクフルな特性が早々に実感される。

スロットルの踏み加減に応じて、エンジンは鋭く反応。とても気持ちよく加速してゆく。速さも時代を超えたもので、現代の幹線道路でも交通の流れをリードするのは、まったくもって容易なことだ。

また、新車当時ライバルといわれていたアルファ ロメオ「2000GTV」や、同じマルニでも2002tiのような2連装キャブレターの野性的な吸気音はないものの、こちらのちょっと機械的な吸気音も魅力的。精度の高さを感じさせる排気音に、同じく緻密な吸気音が折り重なり「クォォーンッ!」と轟く健康的な4気筒サウンドは、なんともいえず気持ちよい。

そしてフロントがマクファーソン・ストラット、リアがセミトレーリングアームという4輪独立懸架がもたらすサスペンションチューンも秀逸なもの。ノンパワステゆえに据え切りや微速域では若干重いが、ひとたび走り出せば極上のステアフィールをもたらすラック&ピニオン式ステアリングの正確性も相まって、ハンドリングも時代のレベルを超えたものだった。

この日の試乗コースである国道1号線、箱根に向かう高速コーナーや、旧道のタイトコーナーであってもまったく姿勢を崩すことなく、軽めのアンダーステアをともないつつ、じつにスムーズなコーナリングマナーを見せたのだ。

* * *

もしも、なんらの予備知識もなくこのクルマのドライバーズシートに座ったなら、これが1960年代に端を発する正真正銘の旧車であることには、なかなか気づけないレベルのカッチリ感と精密感に、ドライビングの楽しさも兼ね備えている。

そしてなにより、マニュアル車を運転できるドライバーなら誰しも難なく走らせられる、圧倒的な乗りやすさを体感したことによって、BMW 2002tiiが時代を超えた傑作であることを今いちど実感できたのである。

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