さらに角が取れた走りはまさしく洗練の極み
AMWでは、昨夏LCI前の前期型B8グランクーペも取材しているが、BMWアルピナに触れるたびにいつも息を呑まされるのが、ラヴァリナ・レザー仕立ての上品かつゴージャスなインテリアである。
ベースであるBMW新型8シリーズの進化にともない、インフォテイメント系がリニューアルされたとのことながら、乗り手の感性に訴えかけてくるのはその違いよりも、「アルピナ」としての瀟洒な仕立てによる違いのほう。サラリとした肌触りの本革シートに腰を降ろすと、明らかに特別なものとして感じさせられる。
そして「START」ボタンを押してエンジンに「火を入れる」。あらゆる電動アシストを持たないV8ツインターボエンジンは、声を荒げることもなくアイドリングに入る。そしてスロットルを踏み込んで走り出すと、低回転から燃焼の「粒」を感じさせるような美声を、あたかもハミングのように聴かせてくる。
ここで気になったのが、従来型B8グランクーペとのエンジンフィールの違いである。もとより素晴らしかった従来型から変更は施されていないはずなのだが、今回の試乗コースがより「踏める」環境だったせいなのか、とくに「SPORT」モードではレスポンスやトルクの盛り上がりが少しだけ向上しているかに感じられ、すでに終焉を迎えつつある純粋な内燃機関のなかでも、もっとも洗練されたもののひとつと断じてしまいたくなる。
トランスミッションは、トルクコンバーター式の8速AT。デフォルトであるATモードに任せた際のシフトタイミングやスムーズな変速マナーもとても良好である。しかも、今回の試乗車両にはオプションのシフトパドルが装備されており、積極的にマニュアル変速したくなってしまう。
そしてこの極上のパワートレインを支えるのが、おなじみ「アルピナマジック」を仕掛けられたシャシーである。2140kgというヘビー級の重量をまるで感じさせないキビキビとしたハンドリングと、舗装面の荒れをほとんど感じさせない乗り心地を完全両立。ステアリングフィールは確実だがシャープすぎることもなく、じつにナチュラルな手ごたえであること自体は従来型から変わっていない。
でも個体差なのか、それともタイヤのせいなのか、乗り心地は従来型からさらに角がとれた印象。脳裏には、リフレインのように「アルピナマジック」という言葉が駆け巡る。
こうしてB8グランクーペを堪能していたら、BMWアルピナがつねに洗練の極みのごとく語られる理由を、今いちど感じ取ることができた気がする。
ワインのごとく熟成された、BMWアルピナ製フルサイズクーペ最終進化形
ボーフェンジーペン家のファミリービジネスだった従来のBMWアルピナは、新興国マーケットの嗜好に合わせた「わかりやすい魅力」が必須条件となっている現在にあっても、徹底して玄人好みに振り切ったクルマ作りを身上としてきた。
そういえば、ボーフェンジーペン家のアルピナはワインの輸入・販売の分野においても、すでに40年以上の実績を挙げてきているという。そして現在もなお、彼らにとってのクルマ作りには、ワインのごとき熟成が重要視されているのだろう。ワインのように熟成されればされるほどに魅力が増してくる。
それは「進化」というよりは「深化」。昔ながらの哲学と方法論による手立てを、コツコツと積み重ねた結果ともいえる。
1978年以来積み重ねてきた経験の集大成として、現在のアルピナが考える最高のクーペGTを創ろうとした。そんなアルピナの信念が結合したのがB8グランクーペであることは、認めざるを得ない。
さらにこのファイナルモデルの素晴らしさは、現在の体制ででき得るすべてのことを行うことで、最後の最後まで「BMWアルピナ」であろうとしている証のように思われたのである。