予想をはるかに上まわるスポーティさ
筆者はこれまでBMW「3/4シリーズ」をベースとする近年のBMWアルピナ6気筒モデル「B3/D3」、「B4/D4」などに加えて、V8ツインターボを搭載する「B5」や「B7」などもテストドライブする機会に恵まれ、奇跡ともいわれるシャシーセッティング、いわゆる「アルピナマジック」の熱心な信奉者となってしまっていることも自認している。
しかしそのマジックが、当代風のショーファードリヴンまで意識したフルサイズのSUVでも健在かどうかについては、いかにアルピナ推しの筆者とて、いささか意地の悪い予想をせざるを得なかった。
BMWアルピナXB7については、2022年夏に前期型を試乗して以来の対面ながら、小山のごときサイズ感には毎度のことながら圧倒されてしまう。ホイールベースは3105mm、全長5165mm×全幅2000mm×全高1805mm(ともに日本仕様データ)に到達するのだから、当たり前のことといわねばなるまい。
後期型XB7のベースモデルとされたのは、BMW X7 M60i。したがって「M」の開発によるS68型V8ツインターボに、さらに48Vマイルドハイブリッド機構まで組み入れられたというものの、これらの新機軸は燃費性能とCO2排出量ダウンに全振りされたのか、最高出力621ps、最大トルク800Nmの公表スペックは不変。
しかも車両重量は、前期型の2580kgから2730kgまで大幅アップしたにもかかわらず、0-100km/h加速4.2秒、巡航最高速度は290km/hのパフォーマンスも変わらないとのこと。
つまりはS68ユニットへの換装も、48Vマイルドハイブリッド化も、すべては環境性能向上のために施されたと見るべきなのだろうが、そこはやはりBMWアルピナである。とくにコンソールのダイヤルを回して「Sport」モードを選べば、ハミングのようにスウィートなV8サウンドとともに猛然たる加速を披露。体感上のパフォーマンスは、記憶に残る前期型XB7を上まわるように感じられた。
極上のグランドツアラーでありショーファードリヴン・カーでもある
今回の試乗コースは、軽井沢周辺。中・高速コーナーの続く幹線道路や、狭い田舎のワインディングなども存分に味わえる場所である。昨年、前期型のテストドライブは鎌倉市内の市街地走行がほとんどで、その走りを存分に味わうまでには至らなかったのだが、この日はXB7持ち前の操縦性も探求することができた。
このステージでもっとも驚かされたのは、ハンドリングの良さである。近年、この種の大型SUVでも操縦性の高いモデルは珍しくなくなっているものの、やはりアルピナの真骨頂はサスチューンであることを思い知らされる。
エアサスペンションや48V電動作動式アンチロールバーのチューニング変更などによって、ロールは絶対的な重心の高さを思えば最小限に抑えられ、怒涛のごとき回頭性を見せる。超ヘビー級のボディサイズゆえにスポーツカー的とまでは言わないが、グランドツアラーとしては極上の1台であると認めざるを得なかった。
そのうえ「Comfort」モードをセレクトすれば、XB7はもうひとつの側面を見せる。エンジンサウンドを荒げることなく、現在では身内であるロールス・ロイス「カリナン」もかくや、と思わせるような乗り心地や静謐な空間も獲得している。
いやはや「アルピナマジック」は、フルサイズSUVであっても健在であると認めざるを得ないだろう。極上のグランドツアラーと現代的なショーファードリヴン・カーを、1台のSUVとしてまとめてしまったのだ。それも、きわめて高い次元で……。
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すでに周知のごとく、アルピナ社はBMWに事業買収されることが発表されている。今後、アルピナはBMWグループに属する1ブランドとなり、2025年までに従来のフォーマットによるBMWアルピナの開発・生産は終了するとのことである。
今後BMWがアルピナをどう活用していくかは未知数である現状において、おそらくは最初にして最後の「BMWアルピナ」製フルサイズSUVとなる可能性の高いXB7に、ここまで高次元な改良を施してきたボーフェンジーペン家のアルピナには、尊敬の想いを禁じえないのである。