ジープ ラングラー アンリミテッド・サハラをオフロードコースで試乗
ここ数年「ジープ(JEEP)」ブランドの躍進ぶりは、目覚ましいものがある。とくにブランドのオリジン直系にして、今なお真髄ともいうべきカリスマ的モデル「ラングラー」の姿を見ない日はないくらいである。その人気は一過性のブームを超えて、わが国のカスタマーの間でも完全に定着したといえるだろう。
軍用車生まれのジープ・ブランド直系モデルがラングラー
ジープ ラングラーは、軍用車として開発された元祖ジープから発展した民生用モデル「CJ」シリーズの実質的な後継モデルとして、1987年に初代「YJ」シリーズが登場。1996年には2代目にあたる「TJ」シリーズに移行した。また、2007年デビューの3代目「JK」シリーズでは、新たにロングホイールベース&後部ドアつきバージョンも登場。日本を含めた輸出市場でも、人気が一気に高まった。
そして、2018年モデルとしてフルチェンジを果たした現行型「JL」シリーズでは、長年継承してきた伝統的なジープスタイルや独自の世界観は不変ながら、ドラスティックな進化を果たし、現代のSUVに求められる快適性や安全性、燃費性能を大幅に向上したとうたわれている。
4代目となった現行型ラングラーは、当初V型6気筒3.6Lエンジンを主軸とし、中途より2L直列4気筒直噴ターボチャージャーエンジンを搭載したモデルも設定。現在では、より効率に優れた4気筒ターボに一本化されている。
アイドリングストップ機構も備えた近代的な4気筒ターボユニットは、最高出力272ps、最大トルク400Nmを発揮し、トルクに関してはそれまでのV6エンジンの347Nmよりも高い数値を得ている。
また、ツインスクロール式ターボチャージャーの採用により、低回転域から高回転域まで優れたスロットルレスポンスを発揮するとともに、タービンはシリンダーヘッドに直接取り付けられ、排気ガスやCO2低減とともに耐久性の向上も図られたという。
さらに2023年からは、2L+ターボ車をベースにプラグイン・ハイブリッド化を図った「ラングラー アンリミテッド ルビコン4xe(フォー・バイ・イー)」も追加設定されたのだが、今回筆者がオフロードドライブを行う機会を得たのは、現在におけるメインモデルである純ガソリンエンジン版「ラングラー アンリミテッド サハラ」だった。
戦々恐々としながら、初のオフロード走行に挑戦
今さらながらの話なのだが、自動車ライターのはしくれとして長年この業界に居ながら、これまで筆者は本格的なオフロード走行にチャレンジする機会を持たなかった。
当代最新のクルマから、丸1世紀以上前のクラシックカーまで運転してきた経験はあるものの、それはすべてアスファルト舗装の上でのこと。さらにいえばメルセデス・ベンツ「Gクラス」やランドローバー「ディフェンダー」などのクロスカントリーカーに乗る機会はあっても、トランスファー(副変速機)レバーを「4L(4WD-Low)」にシフトした経験すらない、正真正銘のド素人である。
そして冒頭で述べたとおり、ジープ ラングラーは今や巷で大人気のクルマ。でも、これまでその姿を見たことがあるのは、東京都内などの都市部やせいぜいリゾート地において、いわゆる「SUV」たちに混ざってのことである。
たしかに新型ラングラーでは、乗用SUVとしての洗練ぶりも目覚ましいという。そのうえで、オフロード走破性能の高さについてもこれまで話には聞いていた。でも、オフロード素人である自分が実際にハードな専用コースを走るとなると、それはまた別の話だろう。
今回の試乗コースである山梨県の富士ヶ嶺オフロードは「初心者でも楽しめる」との触れ込みながら、小心者の筆者は未知の世界に対してかなり緊張しつつ、まずはインストラクターの乗る先導車の後方で隊列を組み、生涯初めてトランスファーレバーを「4L」に入れてクルマをゆっくりスタートさせたのだ。
ところが、隊列の中でゆっくりとコースインすると、思いのほか走りやすいことに気がつく。そして最初の急坂下りに突入したところで、筆者の中では早くもオフロード走行ジープ ラングラーに対する好奇心が芽生え始めていた。
ラングラー各モデルには、急こう配の坂道を降りる際にスロットルやブレーキを自動調節し、最も安全かつ効率よく降りられる「ヒルディセント・コントロール」が装備される。さらにラングラーでは、登り勾配にも適用されるのだが、このシステムがとても優秀。ダッシュボードのスイッチを押し、ATセレクターをマニュアル側に倒す。そしてセレクターの操作で1~8速のスピードを選んで急坂に突入すると「うわ~、楽しい!」という言葉が、思わず口をついて出てしまったのだ。
オンだけでなく、オフでも魅力的な1台でした
じつをいえば走行に入る前には、ターボ付きとはいえ2L直列4気筒エンジンでは、1960kgの車両重量に対して力不足では……? という意地の悪い危惧もあった。また、リッターあたり136psというハイチューンユニットでもあることから、オフロードでは必須の低速トルクは期待できないとも予想していたのだが、それは筆者の杞憂に終わった。
古典的な4輪リジッドながら、クロスカントリー車の先達らしく巧みに練り込まれたサスペンションも相まって、登りでも下りでも適切なスピード感で走破。さらに作動域に入れば正確ながら、適度な遊びのあるステアリングのおかげで、キックバックと格闘することもなくコースと対峙することができる。
そしてここで効力を発揮するのが、先代JKラングラー(アンリミテッド)の7.1mから6.2mに軽減された最小回転半径である。6.2mといえばまだまだかなりの大回りながら、オフロードコースではこの90cmの差が意外なほどに大きい。
くわえて、フロントフェンダーがボンネットフードよりも一段下がった、元祖ジープ以来不変のデザインのおかげで、前方斜め左右の視界はとても良好。慣れてくると、かなりシビアなコースにも嬉々としてチャレンジしたくなってしまう。
もはやヒルディセント・コントロールに頼ることなく、すべて自分の裁量でスロットルやブレーキの操作を行うことができるようになってくると、コースとの対峙が本当に楽しくてたまらなくなってくる。
同行したカメラマンから撮影のためにリクエストされた以上に、急坂のヒルクライムにダウンヒル、モーグルなどのステージを何度も何度も周回する。そしてふとルームミラーに目をやると、いい歳をして満面の笑みを浮かべたアラカンおじさんの顔が映っている。
そして車外に降りると、こんどは泥だらけになったアンリミテッド サハラのカッコよさにニヤニヤしてしまったのだ。
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ところで今回のオフロード体験では、アメリカを代表するタイヤブランド、BFグッドリッチの協力により、舗装路での使用に軸足を置いた「トレールテレーンT/A」、クロスカントリー専用ではないがオフロード走行も念頭に置いた「オールテレーンT/A KO2」からなる、2種類のタイヤを履いたアンリミテッド・サハラを乗り比べる機会を得た。
ただし、前者ではディファレンシャルがより激しく作用して滑りを止めていることが作動音で理解できる程度の違いで、今回のコースでは双方とも苦もなくコースを征服していたことを、レポートの締めくくりとしてお伝えしておきたい。