楽しく走るためのボディとフットワークパーツ
さらに、フットワーク系のチューニングはそれだけで終わらない。強化ブッシュを採用するほか、車高調整式サスペンションを奢っているところも特徴的なところ。フロントサスペンションは、わざわざ倒立式をチョイスしているあたりも剛性にこだわったからこそである。ちなみに車高調に組み合わされるスプリングレートは、34.7N/mm、リア57.3N/mm。減衰力調整は40段階となる。この数値だけを見ても、サーキットだけを狙ったわけではないということがわかる。
そして最後の仕上げはご覧いただければ一目瞭然のエアロパーツの数々だ。全長は95mm長く、全幅は45mm拡大されたことで、かなり存在感を増したこのクルマは、何も見た目にこだわったわけでなく、あくまでダウンフォースをはじめとする機能にこだわった仕上げ方。リアのスポイラーが2段重ねなのは、すべての速度域でダウンフォースを得るためだったというから面白い。見た目はかなり違和感があったが、それもまた理由があると格好よく見えてくる。
リニアな動きはクルマがひとまわり小さくなったような感覚
こうして仕上がった14R60はタイム追求モデルではなく理想の86に仕上がっているが、はたしてどんな走りを見せてくれるのか? まずはジムカーナコースでノーマル車と比較をしてみると、まっさきに感じることは、このクルマがかなり軽快に旋回することだった。小径化されたステアリングをスッと切れば、応答遅れなくノーズがインへ向き、とても素直に曲がる。操作に対する動きがじつにリニアであり、クルマがまるでひとまわり小さくなったかと感じるほど。ノーマルに乗ると一体感なく鈍重に感じられてしまう。
おかげでグリップでもドリフトでも自由自在。クロスレシオ化されたトランスミッションとファイナル変更もまた、アクセルコントロールを容易にしている感覚がある。エンジンがノーマルであっても、この軽快さとリニアリティがあれば許せる。チューニングカーは限界を高めるあまり、ドッシリして自由自在に動かせないパターンが多いが、このクルマにはそんな形跡が微塵もない。
ドライバーにフィットすることを考えた1台
この感触は一般道を走ってみても同様だ。じつに素直であり、乗り心地も満足の仕上がりがそこにある。どうストロークしてどう収まるかが手に取るように伝わってくるところも好感触。また、パーキングスピード付近では軽く、速度を上げると徐々に重みを増す専用チューニングのパワステ制御も絶妙だ。扱いやすさがありながら、きちんと路面からのフィードバックが感じられる。
「グリフォンコンセプト」の志を引き継いだと聞き、てっきりタイム追求のマシンかと想像したが、じつは大きく違っていた。14R60はタイムよりも、どこまで自然にドライバーにフィットするかを考えた1台。言うなれば「身体になじむオーガニック86」と言っていいかもしれない。
※この記事は2014年のXaCAR 86&BRZ magazine Vol.06の記事をもとに、再編集したものです。表記の数値や肩書きにつきましては、当時のものになります。