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100台限定630万円のトヨタ「86」があった! TRD渾身のコンプリートカー「14R60」とは?【86名車プレイバック】

左がグリフォンプロトタイプで、右が14R60。マスクの造形からも同じ系統の車両ということがわかる

グリフォンで培った技術を惜しむことなく投入した14R60

筑波サーキットで58秒407を達成した、TRDの「グリフォンコンセプト」のゴールは、グリフォンを市販車として販売することであった。レギュレーションの枠を取り払って究極を知ることで得たものをナンバー付きモデルにフィードバックさせたのが、2014年10月に発売された「14R60」だ。その走りはノーマルのトヨタ「86」とどのように違うのだろうか?

(初出:XaCAR 86&BRZ magazine Vol.06)

徹底したボディとサスチューンが施されたマシン

高性能実験車両として造られた「グリフォンコンセプト」は、エンジンはノーマルという制約をつけて開発が行われたにも関わらず、筑波サーキットにおいて58秒407という記録を叩き出した。車両重量を1トン以下にまで軽量化したことに加え、ボディ剛性や空力をとことんまで煮詰めた結果が、そのタイムに集約されている。排気量アップも過給器を持つことも許されずにこのタイムを記録したことは驚異的である。

このパフォーマンス的なトライアルはそこで終わることがなかった。TRDは「グリフォンコンセプト」の志を引き継ぐクルマを限定100台という形ではあるが、発売するに至ったのだ。車両価格は86としては驚きの630万円(消費税込)とはいえ、すぐに完売してしまったというから驚きだ。そのパフォーマンスがいかなるものだったかをご報告しよう。

快適性よりは走行フィールアップに特化している

まず、車名となる14R60(イチヨン・アール・ロクマル)の由来は、2014年の「14」、レーシングの「R」、そしてTRD60周年記念の「60」を意味している。ベース車として選ばれたのは86のなかでも軽量な「G」や「レーシング」に近いもの。軽さを追求するなら、競技車ベースとなる「RC」を選択してもよさそうなものだが、このクルマはあくまでストリートをターゲットにしているため、エアコン付きが選択されたということなのだろう。

しかしながら車両価格が630万円するにもかかわらず、エアコンはマニュアル式で、HIDヘッドライトも装着されず、さらにはスマートキーも装備していない。フロアに配されるはずのメルシートまでも廃され、音振に対しても気を配っていないあたりも面白い。

さらに乗車定員も2名とし、フルバケットシートが2脚奢られているところも注目だ。ノーマルでは存在していたトランクスルーも廃止。大きな開口部はカーボンパネルが張り付けられているところも興味深い。とはいえ、レーシングのようにロールケージが張り巡らされるようなことはなく、その他は至ってフツー。これも軽量を追求した結果だ。

軽量化と専用タイヤが異次元の走りを実現する

軽量化はそれだけでは終わらない。ルーフはカーボンへと改められており、ホイールに至ってはマグネシウム鍛造を奢るほどの気合いの入れようだ。重心を低くすること、さらにバネ下重量の軽減による運動性へのコダワリがここにある。そのマグネシウム鍛造のホイールに組み合わせるのは、ブリヂストン・ポテンザRE-11A 3.3T。これは市販されるRE-11Aとトレッドパターンこそ変わらないように見受けられるが、コンパウンドや内部構造についてはこのクルマに合わせたセッティングが施されているとのこと。専用タイヤまで開発するあたりは、さすがはワークス系である。

一方で、剛性アップに対するこだわり方もハンパではない。フロントウインドウを取り外した後に、高剛性接着剤を用いてクルマに再びセットしていることは特徴的なポイントである。それ以外にもサスペンションアームにプレートを溶接して剛性アップ。サスペンションメンバーについても補強が行われている。

楽しく走るためのボディとフットワークパーツ

さらに、フットワーク系のチューニングはそれだけで終わらない。強化ブッシュを採用するほか、車高調整式サスペンションを奢っているところも特徴的なところ。フロントサスペンションは、わざわざ倒立式をチョイスしているあたりも剛性にこだわったからこそである。ちなみに車高調に組み合わされるスプリングレートは、34.7N/mm、リア57.3N/mm。減衰力調整は40段階となる。この数値だけを見ても、サーキットだけを狙ったわけではないということがわかる。

そして最後の仕上げはご覧いただければ一目瞭然のエアロパーツの数々だ。全長は95mm長く、全幅は45mm拡大されたことで、かなり存在感を増したこのクルマは、何も見た目にこだわったわけでなく、あくまでダウンフォースをはじめとする機能にこだわった仕上げ方。リアのスポイラーが2段重ねなのは、すべての速度域でダウンフォースを得るためだったというから面白い。見た目はかなり違和感があったが、それもまた理由があると格好よく見えてくる。

リニアな動きはクルマがひとまわり小さくなったような感覚

こうして仕上がった14R60はタイム追求モデルではなく理想の86に仕上がっているが、はたしてどんな走りを見せてくれるのか? まずはジムカーナコースでノーマル車と比較をしてみると、まっさきに感じることは、このクルマがかなり軽快に旋回することだった。小径化されたステアリングをスッと切れば、応答遅れなくノーズがインへ向き、とても素直に曲がる。操作に対する動きがじつにリニアであり、クルマがまるでひとまわり小さくなったかと感じるほど。ノーマルに乗ると一体感なく鈍重に感じられてしまう。

おかげでグリップでもドリフトでも自由自在。クロスレシオ化されたトランスミッションとファイナル変更もまた、アクセルコントロールを容易にしている感覚がある。エンジンがノーマルであっても、この軽快さとリニアリティがあれば許せる。チューニングカーは限界を高めるあまり、ドッシリして自由自在に動かせないパターンが多いが、このクルマにはそんな形跡が微塵もない。

ドライバーにフィットすることを考えた1台

この感触は一般道を走ってみても同様だ。じつに素直であり、乗り心地も満足の仕上がりがそこにある。どうストロークしてどう収まるかが手に取るように伝わってくるところも好感触。また、パーキングスピード付近では軽く、速度を上げると徐々に重みを増す専用チューニングのパワステ制御も絶妙だ。扱いやすさがありながら、きちんと路面からのフィードバックが感じられる。

「グリフォンコンセプト」の志を引き継いだと聞き、てっきりタイム追求のマシンかと想像したが、じつは大きく違っていた。14R60はタイムよりも、どこまで自然にドライバーにフィットするかを考えた1台。言うなれば「身体になじむオーガニック86」と言っていいかもしれない。

※この記事は2014年のXaCAR 86&BRZ magazine Vol.06の記事をもとに、再編集したものです。表記の数値や肩書きにつきましては、当時のものになります。

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