伝説のアウトローが隠れた洞窟、メラメック・キャバーンを探検
広大なアメリカを東西2347マイル(3755km)にわたって結ぶ旧国道「ルート66」をこれまで5回往復した経験をもつ筆者が、ルート66の魅力を紹介しながらバーチャル・トリップへご案内。今回は、ミズーリ州セントルイスから西に100kmほど進んだ場所にある、総延長7.4kmにも及ぶ巨大洞窟にまつわるエピソードです。
ビリー・ザ・キッドと並び称されるアウトロー、ジェシー・ジェイムズ
母なる道ことルート66の誕生よりはるか昔、ミズーリ州にひとりのアウトローがいた。1847年に誕生し弱冠16歳にして南北戦争に参加、その後はギャングとして数々の犯罪に手を染める。彼の名はジェシー・ジェイムズ。
兄や仲間たちと「ジェイムズ=ヤンガー・ギャング」を名乗り、銀行や列車を次々に襲ってアメリカ全土に悪名を轟かせた。強盗どころか殺人も厭わない凶悪な犯罪者にもかかわらず、襲う相手を富裕層に限定するような義賊っぽい一面があり、また仲間に裏切られ射殺されるという悲劇的な最後から、アメリカではビリー・ザ・キッドと並び人気の高いアウトローだ。
彼の生まれ故郷であるミズーリ州カーニーからクルマで約4時間、ルート66が通るサリバンという人口2000人にも満たない街に、総延長が7.4kmに及ぶ洞窟メラメック・キャバーンがある。大小6000を超える洞窟を有するミズーリ州で、もっとも多くの観光客が訪れるのがここだ。
その理由は地元が生んだ伝説のアウトロー、ジェシー・ジェイムズの隠れ家だったから。大きく湾曲するメラメック川のほとりに洞窟が口を開けており、周囲を深い森に囲まれた環境は身を隠すには最適な立地条件だ。しかも内部にはたくさんの池や川があり、保安官に追い詰められたジェシー・ジェイムズが、小舟に乗り間一髪で脱出したなんて伝説もある。
今ではルート66でも屈指の観光スポットに成長
入場料は大人が27ドルで5~11歳の子どもは14ドル、約2kmを歩くガイド付きのツアーは満足度が高い。私が参加したときの解説によると石灰岩の堆積で洞窟が形成されたのは4億年前、人類が最初に足を踏み入れたのは1772年でフランスから入植した坑夫だったとか。
ただしミズーリ州にはショーニー族など先住民が暮らしており、それ以前から洞窟の存在を知っていた可能性は高いだろう。18世紀に入ると火薬の主な原料として知られる硝石が採掘され、南北戦争に従事したジェシー・ジェイムズの知るところとなる。
見学ルートが整備されたのは19世紀に入ってからの1933年で、クルマのリアバンパーに貼るステッカーを無償で配布したり、近隣のフリーウェイに50以上の看板を設置するなどして宣伝。地道な努力が実り現在では年間に15万人が訪れる、ルート66でも屈指の観光スポットに成長した。
ブラッド・ピット主演映画『ジェシー・ジェームズの暗殺』も必見!
ガイドは英語だが伝説のアウトローに想いを馳せつつ、美しく繊細な鍾乳洞を眺めて歩くだけでも楽しめる。最後の「グレイテスト・ショー・アンダー・ジ・アース」は、何十本も連なった鍾乳石を巨大なスクリーンに使い、アメリカの歴史や豊かな自然を紹介するショート・ムービーだ。BGMは第2の国歌と呼ばれ親しまれている「ゴッド・ブレス・アメリカ」で、セリーヌ・ディオンの情感たっぷりな歌声にアメリカ国民ではなくとも感動すること必至。先を急ぐ旅ではないのなら、ぜひ立ち寄ってみよう。
余談だが2月13日は「銀行強盗の日」なる記念日となっており、由来は1866年2月13日に世界で初めて銀行強盗に成功したことで、その犯人がジェシー・ジェイムズ率いるジェイムズ=ヤンガー・ギャング。彼は前述したとおり1882年に仲間の裏切りで射殺されるが、じつは逃亡に成功し20世紀に入るまで生き延びた、なんてウワサがささやかれるのも庶民からの人気が高かった証だ。
ジェシー・ジェイムズの映画も昔からたくさん製作されており、最近では2007年に公開された『ジェシー・ジェームズの暗殺』が有名。ブラッド・ピットが演じるジェシー・ジェイムズと、彼を裏切ったロバート・フォードにスポットを当て、暗殺にいたるまでの心理を丁寧に描いている。西部劇としてもサスペンスとしても優秀な作品なので、興味を持った人はぜひ観てみよう。
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