レトロモダンなボディに、最新鋭メカニズムがみごとにマッチした走りとは
AMWをご覧いただいている皆さまの中には、バブル期とそのあとの日本で一部のファンから熱愛された「グランドワゴニア」をご記憶の方も多いかもしれない。
模造ウッドによる加飾がボディサイドとテールゲートに施され、1980年代においてもクラシカルだった「ウッディ(Woody)」スタイルは、母国アメリカはもちろん、日本でもコアな人気を獲得。ひと頃はファッション&ライフスタイル誌にもしばしば登場するなど、おしゃれなアメリカ車の代表格として東京都内で目撃する機会も少なくはなかった。
この新型グランドチェロキーは、グランドワゴニアの初期モデルである元祖「ワゴニア」をデザインのモチーフに選んだそうで、ワールドプレミア前のティザーキャンペーンでもそれを大きくアピールしていたこと、また、国内メディアでも「グランドワゴニアの再来?」などと噂されていたことは記憶に新しい。
そして今回、初めて実際に目にした新型グランドチェロキーは、たしかに元祖ワゴニアのエッセンスを巧みに表現しているものの、単純なレトロ調に留まることなく、2020年代の最新モデルにふさわしいモダンな感覚も体現。とても魅力的なものとして映った。
またインテリアについても、スタンダードのリミテッド4xeではシンプルながら上質感のあるしつらえで、かつてのアメリカ車を思わせるつくりの粗さは、みじんも見受けられない。だから、少なくとも視覚と触覚では大いに満足のできるものとなっている。
それでは走りはどうなの……? と問われれば、それは「なかなかのもの」とお答えしたいところだ。
パワートレインのシステム総出力は375ps、システム総トルクは637Nmというなかなかの力持ちながら、本格的なPHEVシステムを搭載することから、車両重量は純ガソリンエンジン版よりも340kgも重い2410kg。したがってシートにグイッと背中を押しつけられるようなパワフルさは求められないながらも、必要にして十分というレベルは獲得している。
またバッテリー残量が充分なときは、電動モーターがかなりの速度域まで介入してくるので、エンジンの存在を音で感じる機会は少ない。ところが残量が一定レベルまで減ってしまうと、発進の直後から4気筒エンジンの排気音が明確に耳へと入ってくる。
この排気音の音量自体は車格相応で、さほど気にはならない。しかし音質はといえば、筆者が日常のアシとして愛用しているアルファ ロメオ「ジュリエッタ」用4気筒ターボエンジンにも似た軽いもので、現代の自動車メーカー間のアライアンスを実感させるとともに、いささか不釣り合いにも感じられてしまったというのが正直な印象でもあった。
とはいえ、それを補って余りあるのが、シャシーチューニングの妙である。
路面の荒れたカントリーロードでも乗り心地は素晴らしく、ロードノイズやハーシュネス(突き上げ)は最小限。筆者の記憶に残る、かつての歴代グランドチェロキーで感じた「ガタガタ・ミシミシ」からすれば、まさしく隔世の感である。比較の対象として適切か否かは別として、以前試乗した先代「レンジローバー」がみせた極上の乗り心地にも、勝るとも劣らないように感じられた。
その代償として、一定以上の曲率のカーブでは重心の高さも相まって大きめのロールをフワリと許す。でもクルマのキャラを思えば、それはむしろ個性と感じられたのだ。
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ところでまったくの蛇足ながら、この日のテストドライブを終えて帰宅したのち、筆者は純粋な好奇心から「New Grand Cherokee Woody」で検索してみることにした。すると、主にアメリカの専門業者や自動車メディアのサイトなどで、新型グランドチェロキーを「ウッディ」化するコンバージョンキットやその施工例が、けっこうな数でヒットする。
エンスーの考えそうなことなんて、洋の東西を問わず同じなんだな……と感心しつつ、やはり新型グランドチェロキーのレトロモダンな魅力は、母国アメリカでも受け入れられていることを実感したのである。