新車価格からほぼ3万ユーロ増し
近年のコレクターズカー市場では、新車として販売されて間もない時期のハイパーカーやスーパーカー、あるいはプレミアムカーの限定モデルが早々に売りに出される事例も少なくはない。去る2023年5月に開催されたクラシックカー・コンクール「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ」の公式オークション、RMサザビーズの「Villa Erba」では、コンコルソ主催社でもあるBMWの名車たち、ことに近現代の「M」モデルたちが多数出品されることになった。その出品車両の中に、昨2022年に限定生産されたばかりの「M4 CSL」が含まれていたことが、全世界レベルの話題を呼んだという。
伝統のCSLの名を冠した、もっともハードコアな現行型M4クーペとは?
BMW「M」部門の創業50周年を記念して製作された、世界1000台の限定モデルとして2022年5月に発表された「M4 CSL」は、G82世代の4シリーズで最も速く、最もパワフルなモデル。はるか半世紀前、バットモービルとも呼ばれた「3.0 CSL」や、20年前のE46系「M3 CSL」と同様のセオリーにしたがって、数々の軽量化策が施されている。
たとえば、カーボンファイバー強化プラスチックのボンネットとトランクリッド、キドニーグリル、エアインレット、ドアミラーカバー、そしてルーフやディフューザーなど多くのパーツがCFRPに置き換えたほか、遮音材の削減に軽量チタン製エグゾーストシステム、カーボンセラミックのブレーキディスク、E46系M3 CSLスタイルの一体型リアスポイラーなど、ハイスペックな仕様で構成されている。
いっぽうインテリアでは、レーススペックの「Mカーボン・フルバケットシート」を前席に装備。リアシートは潔く取り外したうえに、センターコンソールもカーボンファイバー製の専用品に換装。ステアリングまわりでも、スポークの加飾部分やパドルシフトのパドルなどがCFRPの専用品とされた。
こうして「Coupe(クーペ)」「Sport(シュポルト)」、そして「ライヒトバウ(Leichtbau)」、すなわちライトウェイトのイニシャルとうたわれていたCSLの名にふさわしいデバイスを重ねた結果、メーカー公表値では「M4クーペ コンペティション(RWD)」に比べたら約100kgの軽量化に相当する、1630kgの車両重量となった。
そしてM4用エンジンの「S58B30B」では480ps、M4コンペティション」用の「S58B30A」では510psを得ていたパワーユニットは、さらに40psアップに相当する550psスペックとされたうえでM4 CSLに搭載。前述のシビアなダイエットも手伝って、M4 CSLはわずか3.7秒で100km/hに達することができるとうたわれた。
さらにこの改良は、「ノルドシュライフェ(ニュルブルクリンク北コース)」のホットラップによって実証されることになる。M4 CSLは、先代F82系M4のハードコア版「M4 GTS」のラップタイムから8秒を短縮し、BMW量産モデル史上最速となる7分20秒207を叩き出したのだ。
わずか1年間で、約470万円の価値が上乗せされてしまいました
今回RMサザビーズ「Villa Erba」オークションに出品されたBMW M4 CSLは、「フローズン・ブルックリン・グレー」のボディに、ブラックのインテリアの組み合わせ。ドイツ国内マーケットに150台のみ正規導入されたうちの1台とされている。
ミュンヘン郊外ガルヒンクのBMW M専用ファクトリーからラインオフされたのち、2022年8月22日に、今回の出品者である「The M Power Collection」名義で初登録。それ以後は同コレクションの所有となってきた。
添付される記録簿によると、新車点検とランニングイン作業は2022年9月14日に行われた。同時に7000ユーロを超える費用を投じ、PPF(プロテクションフィルム)加工が施されたことも記されているようだ。
RMサザビーズ欧州本社の制作した公式オークションWEBカタログでは、オドメーターの示すマイレージはまだ6006kmに過ぎないこと、そして「驚異的なパフォーマンスと真の希少性を両立させたこの記念モデルは、50年にわたる素晴らしいMカーへのトリビュートとしてふさわしいものである」と文言も誇らしげにうたわれていた。
G82系M4 CSLは、日本に25台が正規輸入され、国内発表の直後にBMWオンラインストア限定で抽選販売。新車時の消費税込み販売価格は2196万円だった。いっぽう生産国ドイツを含む、EUマーケットでのベーシック価格は12万5900ユーロ(税・オプション別)だったとのことである。
そして、ワールドプレミアと抽選受付スタートからちょうど1年後、この5月20日に行われた競売では15万8700ユーロ、現在の日本円に換算すれば約2470万円で落札されることになったのである。
わずか1年前に抽選から漏れて、あるいはタイミングが悪くて入手がかなわなかったBMW M愛好家にとっては、新車価格からほぼ3万ユーロ(約470万円)増しというハンマープライスも、決して法外ではない。ある意味、理にかなったものと判断された……ということなのだろう。