356時代の純正カラーを新車時代からまとう、特別な911S
今回RMサザビーズ「THE CARRERA COLLECTION」パート2イタリア篇に出品されたポルシェ911Sクーペは、Bシリーズとしては比較的早い時期に生産され、1969年1月にイタリアのヴェネツィア郊外メストレに、新車として納車された個体とされる。
まず興味深いのは、同じポルシェでも旧い「356」時代の専用カラーであり、当時911には設定されていなかったはずの「ケーニヒスブラウ(Koenigsblau:ロイヤルブルー)」が、最初のオーナーの意向であえて特別注文されていたことであろう。
さらに当時のファーストオーナーは、ハウンドトゥース(千鳥格子)柄のファブリックと黒いレザレット(ビニールレザー)のコンビシート、そしてザックリとした風合いのバスケット織インサートで設えたインテリアをオーダーし、オシャレな特注ボディカラーをまとう911をさらにカスタマイズしていた。
この911Sは、のちにシチリア島パレルモ近郊のボルゲットに長年居住していたことが記録されているが、「カルデックス(Kardex)」社にストレージされた公式ファクトリー生産記録のコピー(ファイルで閲覧可能)でも確認できるように、クラシックカーのマーケットでは重要視される「マッチングナンバー」が、シャシー/エンジン/ギヤボックスともに維持され、レストアの際にも新車時代のオリジナリティが尊重されている。
このオークション出品のために新規作成された公式WEBカタログでは、「大規模かつ正しい時代考証に基づいたレストア歴のあるこの911Sクーペは、1960年代後半におけるシュトゥットガルトの傑作をダイレクトに体験できる絶好のチャンスを提供する一台」と高らかにアピールされていた。
そしてカレラ・コレクションとRMサザビーズ欧州本社との協議の結果、このロイヤルブルーの911Sには、10万ユーロ~14万ユーロというエスティメート(推定落札価格)が設定されていた。だが、7月12日に主にオンライン形式で行われた競売では順調にビッド(入札)が進んだようで、終わってみれば12万3050ユーロ、日本円換算で約1920万円というなかなかの高値でハンマーが落とされることになった。
空冷911のマーケット価格といえば2010年代中盤あたりがピークで、ここ数年は落ちついていた感もある。しかし、今回のハンマープライスはピーク時における相場価格にも匹敵するものといえるだろう。
そこには、来歴やレストア時の時代考証の確かさや現状のコンディションに加えて、たとえば希少なボディカラーが新車時代から継続されていることなども、重要な要因として働いたかに思われるのだ。