フォルクスワーゲンのEV攻勢の主力がID.4
2022年11月より日本導入となったフォルクスワーゲン(以下VW)の電気自動車「ID.4」に、今回はテストコースの特殊な環境下で試乗する機会を得た。日本導入時にあったローンチエディションは2022年中に完売したが、8月より2023年分が日本に多く輸入されることになり、いよいよこれからがID.4の本格導入となる。
EV専用プラットフォーム「MEB」はリアモーター×リア駆動
VWでは2030年までに2018年比でマイナス40%のCO2排出量削減(ライフサイクルで)をまずは目指している。これはその第一歩ということなのだろう。これまで2019年には「ID.3」、2020年にはID.4、2021年には「ID.5」&「ID.6」、2022年には「ID.BUZZ」を発表してきたVW。2023年から2026年までにさらに10モデルのEV導入を世界で予定。直近ではミディアムセダンで航続距離700kmを誇る「ID.7」、ID.3のマイナーチェンジ、そしてID.BUZZのロングホイールベース版が準備されているという。
その中核を担うID.4は、EV専用のモジュラー・エレクトリック・ドライブマトリクス(MEB)というプラットフォームを採用。狙うは長い航続距離、広々とした室内空間、高い快適性、そしてダイナミックなドライビングで、MEBの採用によりエキゾーストやプロペラシャフトを持たないフラットなフロアや、ロングホイールベースによる大容量バッテリーの搭載、そしてコンパクトなモーターによるショートオーバーハングを達成している。
今回はリフトに上げた状態で車両下面を見せてもらったが、前から後ろまでほぼ真っ平な造りは圧巻。ただ、それだけで終わらずところどころに空力処理が行われていたり、サイドメンバー内には押し出し成形アルミニウムを入れてかなり頑丈な造りとなっていたところが印象的だ。サイドインパクトからバッテリーをなんとしても守るという意思が伝わってくる。
ボディを全体的に見ればやや大きめに感じるが、じつはどちらかといえばコンパクトなSUVの「ティグアン」がサイズ的には近似値。ID.4のサイズは全長4585mm×全幅1850mm×全高1640mm、ホイールベース2770mm。「ティグアン」は全長4520mm×全幅1840mm×全高1675mm、ホイールベース2675mmとなっている。
余裕をもたせたバッテリー管理もVWのこだわり
グレードは「ID.4 Lite」と「ID.4 Pro」で、搭載されるバッテリーが異なる。Liteが52kWhで航続可能距離は435km(WLTC)、Proが77kWhで航続可能距離618km(WLTC)となる。興味深いのは、じつはバッテリーサイズ自体はLiteが55kWh、Proが82kWhだということ。これはギリギリまで使わず、バッテリーの充電状態や温度を的確にマネージメントすることで、その寿命を伸ばそうとしているのだ。8年16万kmまでに70%の残量を確保することを保証している。
そんなID.4の特徴は、リア駆動をメインとしていることだ。モーター出力に関してはLiteが最高出力125kW(170ps)/最大トルク310Nm、Proが150kW(204ps)/310Nm。モーターのサイズはかなりコンパクトに収められていることが印象的で、説明では大きめのスポーツバックに入るサイズとされていた。ボディ下面を見た際にはアンダーカウルが外され、その全貌を見ることができたが、たしかにモーターはコンパクトだった。そのせいか、0-100km/h加速はProで8.5秒。最高速は160km/hとなっている。
素直なハンドリングは扱いやすく楽しい
さて、そんなID.4をいよいよ走らせる。今回乗るのはIiD.4 Proと同等のローンチエディション。まずはドライのハンドリング路だ。そこで感じるのは素直なハンドリングと、確実なトラクションだった。ボディ下面に500kg越えのバッテリーを敷き詰めており、重心は低く収められるが車両重量はおよそ2.1t。けれども、それを無理に抑制しようとはせず、豊かなストロークと程よいロールが得られる造りとしていたことは好感触だ。
前後バランスに優れた感覚をもたらし、操舵輪と駆動輪を分けたことによる素直なハンドリングは見どころのひとつ。トラクションをグッと与えることも可能だし、回生ブレーキが効けば後ろから引っ張りながら止めてくれることもあって、前輪に余裕を持たせてくれるところも素直なハンドリングには効いている。出力的な派手さは、正直言ってないが、それは素直なトルク特性を狙ったとも受け取れる。だからこそ、ワインディングで扱いやすく乗り味が楽しい。EVであってもダイナミック性能を忘れないあたりは、さすがはVWといったところか。
緻密なトラクション制御で圧雪路でも上っていける
続いて与えられた環境は雪道を模した低ミュー路だ。後輪駆動でそこをどうクリアするのか? まず走り出した坂道は、圧雪路や凍結路と同じ路面ミューとなっている。まずは両輪を圧雪路想定の場所に乗せて坂道途中で停止。そこから発進させてみることになった。すると、スタビリティコントロールがじわじわと働きながら、難なく坂を上り始める。その後、左は凍結路、右は圧雪路想定の場所に乗せて発進してみるが、そこでも確実にトラクションを与えてくれることを確認。
もちろん、乱暴にアクセルを踏み込めばややカウンターを当てながらの走行となるが、上れないわけではないのが興味深い。スタビリティコントロールの介入はもちろん、トルクが出過ぎずにコントローラブルなところが特徴のように感じた。
その後は圧雪路想定のスラロームを走るが、アクセルの調教具合はかなりのもの。ときにはアクセルで曲げてパイロンをクリアすることだってできる。後にウエット円旋回も行うが、ドリフトアングルを維持しながらの旋回だって可能だ。
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ただ、本格的な雪道ではもっとトラクションが欲しくなるだろうし、破綻するような挙動はできるだけ出したくないのが本当のところ。正直に言うと、現在の後輪駆動モデルはあくまで非降雪地域において主に使うユーザー向けのように感じる。降雪地域には、やはりドイツ本国に存在する4WDモデルが似合いそうに思えてならない。今後の日本でのモデル展開に期待していきたい。