オーナーズクラブや整備記録書も残る
RMサザビーズは、2023年7月に2週連続で、「ザ・カレラ・コレクション」と題したオークションを開催した。1回目はスイスで、続く2回目はイタリアを会場として選んだこのオークションは、「カレラ」という言葉からもファンには想像がつくとおり、ポルシェを中心とした出品車を一堂に揃えたもの。1週目は55台の出品車中38台が、また2週目は27台中24台がポルシェというラインナップは、クラシックから現代のモデルに至るまで、そのオークション相場を知るには最適なイベントだった。
アメリカ市場を視野に入れていたポルシェ928
今回ここで紹介するのは、2週目に開催されたイタリア・オークションのファーストロットを飾った、1990年式の「928 S4」だ。928は1970年代の中盤にポルシェ社内で開発がスタートしたフロントエンジン・リアドライブのグランドツーリングで、将来的には911の後継車、すなわちポルシェを象徴するボリュームモデルとしての役を担う目的をも秘めていた。
アトナール・ラパインによるエクステリアデザインは、現代の目で見ても造形の美しさとともに、空力的に洗練された印象を与えるが、911からさらなる進化を遂げていたのはそのパワートレインにほかならなかった。
ポルシェにとって最も重要な輸出市場であるアメリカ市場を視野に入れ、選択されたのはV型8気筒SOHCの4.5Lバージョン。これに5速MTもしくは3速ATを組み合わせ、後輪を駆動するFRの基本設計だが、エンジンをフロントミッドシップし、さらにトランスミッションをリアに配置するトランスアクスル方式を採用するなど、前後重量配分の最適化には徹底的なこだわりを見せていた。
リアサスペンションに採用された、コーナリング時の横荷重を用いて機械的にアウト側のタイヤをイン側に向けて最大2度操舵するヴァイザッハ・アクスルも、928に採用されたメカニズムでは特筆すべきもののひとつだ。928はポルシェのフラッグシップカーであると同時に、当時の最新技術を満載したモデルでもあったのだ。
内外装は新車時のコンビネーションのまま
1978年には、ポルシェはV型8気筒エンジンの排気量を4.6Lに拡大した「928 S」を発表。1986年には今回オークションに出品された928 S4が登場することになるが、こちらにはエクステリアのフェイスリフトとともに、再びエンジンの強化が行われている。5Lに排気量拡大された928 S4のエンジンは320psを発揮し、最高速はじつに260km/hを記録したとポルシェは発表している。
今回ザ・カレラ・オークションに出品された928 S4は、1970年7月に生産されたドイツ向け仕様。現在までの走行距離は6万8753kmで、ファクトリーカラーのスレートグレーメタリックのエクステリアカラーに、グレーのレザーインテリアという仕様も新車時そのままのコンビネーションだ。
さらにオプションで電気調整式シートヒーター、着色フロントガラス、パワーサンルーフなどが備わっている。オーナーズマニュアルや1990年までの整備記録が残る保証書、また純正ジャッキ、ツールキット、省スペースのスペアタイヤ、救急箱などももちろん使用感なく928 S4には搭載されている。
ポルシェは928シリーズの生産を1995年まで継続するが、それ以降同様のコンセプトを持つモデルの生産は行っていない。そのような事情もあるのだろう、今回の928 S4には応札が繰り返され、最終的な落札価格は2万8750ユーロ(邦貨換算約442万7500円)に落ち着いた。
ちなみに8月中旬にアメリカのカリフォルニア州モントレーで開催される同社の「モントレー・オークション」には、928の最終モデルである「928 GTS」が出品される予定。その落札を狙うカスタマーには、今回のリザルトはきわめて大きな参考になったに違いない。