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シトロエンの「はたらくクルマ」はオシャレすぎて真夏のレジャーカーに!「メアリ」がフランス人に愛される理由とは【夏のビーチカー_02】

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TEXT: 長尾 循(NAGAO Jun)  PHOTO: Stellantis

ABS樹脂ボディを採用して製造も交換もラクラク

このメアリのシャシー自体は2CV由来、正確には602ccのOHV空冷水平対抗2気筒エンジン・前輪駆動のディアーヌ6と共通だが、やはり最大の特徴は、なんといってもABS樹脂で成型されたバスタブのような独自のボディだろう。樹脂製ボディといえば、それまでにもロータス「エリート」やポルシェ「904」、富士自動車「フジキャビン」などいくつかの例があったが、それらはいずれもFRPボディ。外板すべてにABS樹脂が用いられた量産市販車はこのメアリが初である。

耐熱・耐衝撃性に強く加工もしやすいABS樹脂は、成型後にボディ塗装が必要なFRPボディと異なり、樹脂の発色そのものがボディカラーになりえた。これは生産工程的にも有利に働いたことだろう。当時メアリに用意された黄土色、赤、緑のカタログカラーはボディに塗られた塗料の色ではなく、ABS樹脂の成型色そのものなわけだ。

ビーチで活躍するレジャーカーとして若者に大ヒット

もともとは働く人々のためのツールとして生を受けたメアリであったが、その汎用性の高さとユニークで楽しげなキャラクターはデビューから程なく、本来メーカーが意図していなかったユーザー層からも大きな注目を集めるようになる。傷にも強くパネルの交換も容易、水にも強いABS樹脂ボディのメアリは、本来の「はたらくクルマ」としての用途以外に、リゾート地のビーチなどを走り回る「レジャーカー」としても、若い世代を中心に人気を博したのである。デビュー当初は左右のドアさえ持たない簡素なメアリであったが、ドアやハードトップなどの自動車らしい装備を徐々に追加しつつ、じつに1987年まで生産されるロングセラーとなった。

メアリの生産中止後にはフランス国内のメアリ・クラブ・カシスという小規模なファクトリーがシトロエンのお墨付きのもと、独自にメアリの「新車」を作ったり、パーツの供給を続けたりという活動を行っている。

さらには2016年、シトロエン自身もメアリをオマージュした「Eメアリ」と呼ばれる全く新しい4座オープンの電気自動車をリリースした。これはメアリがいまなおフランス人にとって欠かすことのできない「懐かしの軽便な作業車」、もとい「青春の思い出とともにあるビーチカー」といった強い記号性を持つことの証といえるだろう。

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  • 長尾 循(NAGAO Jun)
  • 長尾 循(NAGAO Jun)
  • 1962年生まれ。デザイン専門学校を卒業後、エディトリアル・デザイナーとしてバブル景気前夜の雑誌業界に潜り込む。その後クルマの模型専門誌、自動車趣味誌の編集長を経て2022年に定年退職。現在はフリーランスの編集者&ライター、さらには趣味が高じて模型誌の作例制作なども手掛ける。かつて所有していたクラシック・ミニや二輪は全て手放したが、1985年に個人売買で手に入れた中古のケーターハム・スーパーセブンだけは、40年近く経った今でも乗り続けている。
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