これまでのR35とはまるで違う
ミレニアムジェイドのボディカラーにインテリアもグリーン。最もTスペックらしい装いの個体を横浜の日産グローバル本社で借り受けて、いざ、首都高〜東名高速〜新東名〜名古屋湾岸〜新名神といういつものルートで自宅のある古都を目指す。
首都高に乗る前、みなとみらいの一般道から「ある異変」に気づいた。足元がいっそう軽やかに動くのだ。妙に軽い。まるでタイヤそのものがダウンサイズされたかのよう。ボディ骨格の強さは今なおトップレベルを誇っているから、足元が軽やかなぶん、鼻先が気持ち良く自在に動く感覚がMY22に比べてもいっそう強調されている。初期モデルからは考えられないほどの変化、というかまるで別モノの運転フィールで、もはや記憶に染み付いたR35ではまるでない。
首都高に入る。意のままの操縦感覚がさらに深まっていく。足元の妙な軽さが徐々に車体そのものの軽快感へと変わっていく。エンジン回転数も上がり、ボディが引き締まったうえにサスペンションの一体感が増すから、クルマ全体が軽やかに感じるのだ。GT-Rには動的な軽さがあった。
頃合いを見計らって右足に力をこめてみる。トラクションのかかりが凄まじい。それも路面を一方的に無理やり掻くというよりも相談しつつグリップし合っているという感覚だから、不安がない。実際、不安定な挙動の兆候さえ現れなかった。
GTは速さよりも気持ちよさが大事
コーナリングでの安定感も過去最高のレベルに達している。エアロダイナミクスで抑え込むようなニスモとは違って、対話を続けながら旋回するかのようだ。つまり、クルマに乗せられている、のではなく、クルマを駆っている感覚がずっとある。ここはサーキットではない。速さよりも気持ちよさの方が大事。だから「gt-R」ではなく「GT-r」なのだ、とクルマが語っている。
とはいえ空力が進化したからだろう。さらにエグゾーストサウンドも洗練された結果、高速クルージングの疲労感がさらに減った。筆者にはシートがやや狭かったけれども、メタボが進行しているという警告だと受け取っておく。とにかく、あっという間に京都についてしまった。それはもう、惜しいくらいに!
ファン・トゥ・ドライブというGT-Rの進化
ホームコースのワインディングロードでも走ってみる。ニスモでは身体が音を上げるほどの旋回Gを経験したものだが、Tスペックはそのレベルに達する前から素直に運転が楽しいと思える。目を三角にして走らせずとも、十分に楽しめるし、その段階でも十分に速い。ファン・トゥ・ドライブという点では史上最高のR35であることは間違いない。
一方で、重戦車が突如としてレーシングカーに豹変するようなR35本来のユニークさはほとんど消え失せた。洗練された、というと聞こえはいいかもしれないが、個性という点では薄まっている。けれども自動車の進化がそうであったように、これもまたGT-Rの進化であると言っていい。