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割安なポルシェ991後期型「911GT3」の状態はいかに? 還暦前オヤジの「なめるように見る」吟味編【役物911長期レポ】

憧れの羽根はかなり派手で冷静に見るとちょっと気が引ける(笑)。カーボンファイバー製のウイングは前期型に比べて20mm高く、10mm後方にマウントされる

1980万円の2018年式991後期型911GT3をチェック!

トラベル系コンテンツディレクターとして糊口をしのぐ筆者が、齢60を前にしてドライブ旅行やスポーツ走行にも挑戦したいという想いから、憧れだった羽根付き「ポルシェ911」の購入を決意。経済的にも体力的にも限界にきている(?)アラカンのおっさんにポルシェは翼を授けるのか? 今回は、1980万円で売りに出ているのを見つけた2018年式991後期型GT3(PDK、クラブスポーツ仕様)をなめるように見ていく。はたして買うのか? 買えるのか?

サーキット未走行か? でも下まわりは擦れまくり

外観は素人目には問題がないように思えた。続いて下まわりを覗いてみる。991型GT3の車高は991のカレラSより25mm下げられ、最低地上高は車検ギリギリの9cmである。お尻を突き出してあれこれ覗くと、案の定フロントスポイラー下部のフロントリップやアンダーパネル、リアディフューザーは、けっこう擦れていた。それに表向き9cmという最低地上高だが、リアディフューザーと地面の間は8cmくらいしかなさそう。一般的なタイヤ止めの高さは10cm前後だし、乗り始めたらいずれどこかで擦るであろうことは間違いなく、擦り傷うんぬんなど言ってられない。

さすがに5年以上経過し、そこそこ走っているので下まわりの経年感は否めないが、アームのブッシュ類も全体的に健全そうだった。象徴的部分であるセンターロックのホイールはガリ傷なし。タイヤを見ると、溝はけっこう減っていて6分山といったところ。ミシュラン製パイロットスポーツカップ2は、ポルシェ指定のNタイヤで生産年は2017年のものだった。ん? とそこで思った。もしやこの個体、新車時からずっとそのままではないか? と。

溶けたタイヤカスも見当たらない。だとしたら、クラブスポーツ仕様なのにサーキット走行にあまり使われていないかも……なんて前向きに思ったのだった。なぜなら、サーキット走行をメインとしたクルマならば、この年式や走行距離からして、セットを変え、新しめのタイヤになっているはずで、当時のままというのは考えにくいからだ。別セットを持っていたとかあるかもしれないが……。

まあ、サーキットを走って然りのモデルだし、ちゃんと整備されていればそこはあまり気にはしない。ただ、よーく考えるとタイヤは減り具合もさることながら、6年目に突入している。もはや寿命ではある。車検は通るだろうが、交換は必須だろう。

問題は、このミシュランのパイロットスポーツ カップ2がお高いこと。市場を見渡すと4本セットで40万円前後である。この出費も覚悟かと思うと、正直ビビる。最近、性能や品質が上がっている安めのアジアブランドタイヤという選択肢もあるだろうが、ミシュランとGT3開発陣が2年半もかけて共同開発したタイヤだけに、一度はクルマとあわせて味わいたいもの……。タイヤ問題は頭がイタイ。

素人には判断がつかないメカニカル音。でも調子は良さそう

ディスクローターは茶色くサビがけっこう浮いていた。減ってはいたが、ディスク表面やホールに細かなヒビはほとんど見られない。整備記録からもパッドもまだまだ残量はありそうだ。消耗品だし、こちらもいずれは変えねばならないが、しばらくはもつだろう。と、これまた自分に言い聞かせた。

4.0Lのエンジンは一発でかかった。アルミ製ドアの軽さに驚きつつ、シートに潜り込んでキーをひねるとバボンと威勢のいい咆哮が響く。かなり賑やかである。アイドリングが安定してきたタイミングでエンジンに耳を澄ます。とはいっても聞いたところでてんでわからないのだが、何かガシャガシャとうるさい。これがスタンダードなのか? それにエンジン下まわりからわずかに聞こえるビビり音も気になった。だが、新車や完調の状態を知らないから比べようがない。

「GT3は遮音材も省かれていますし、NAエンジンの前期型カレラと比べると暖まるまで結構メカニカルノイズしますから。PDKだとギアまわりの音もします」

と担当者。まあ、ジャーナリストさんらの記事を読むと、「ガチャガチャと音がする」などと表現されているので、そうなのかもしれない。ただ、YouTubeで数多く上がっている動画で聞くアイドリングや乗車中のサウンドは、ほとんど排気音だけで、あまりメカニカルな音やビビり音は聞かれない……。距離を走っているからだろうか? 嗚呼、こういうときにGT3をよく知る仲間やオーナーが周りにいたらなぁ、とつくづく思うのだった。

ビビり音は気にはなったが、その後ブリッピングしてみたり、敷地内を転がしたりもしたところ、計器類も問題なく、まあ、エンジン自体は問題ないようには感じた。

素っ気ないレーシーな雰囲気は嫌いじゃない

内装はいたって素っ気ないものだ。標準のブラックの合皮=レザレット仕様で、メーターもノーマルだ。色気のある飾りといえば、アルカンターラのハンドルやドアアーム、それとアルミ(アンスラサイト)のトリムの組み合わせくらい。ちょっとチープである。昭和風に言えば、「無駄を省いた男の仕事場」。個人的には、このシンプルで素っ気ない感じは嫌いじゃない。ちなみにサンバイザーも合皮で、防音材が省かれているだけに戻すとバタンと天井が響く。ほとんど働く軽トラと同じ響きである。

車内はクラブスポーツ仕様なので、CFRP製のスポーツバケットシートと後部座席にはジャングルジムのごとくボルト固定式ロールケージが備わる。シュロス製6点式シートベルトははじめからシートに装着されていた。消火器は箱に入ったままである。これまでクラブスポーツ仕様の物件を見ていると、6点式シートベルトも箱入り状態の物件が多かったが、装着しているということは、サーキットを走っていたのかもしれない。

ともかく雰囲気はめっちゃレーシーである。レーシングな香り好きとしては、心躍らないといえばウソになる。が、ロールケージが邪魔して荷物が積めないのはどうにも気になるのであった……。

トラウマを乗り越えて! 買えるならコイツにしよう!

恋は盲目状態に陥っていたが、なんとか冷静になって見ていくと、ロールケージに加えていささか抵抗を感じたのは、色の組み合わせだ。煌めきあるジェットブラックのボディカラーはステキに映ったのだが(夏は暑そう)、ブラックのホイールとの組み合わせがどうもイカン。ド派手な羽根に全身真っ黒である。コワモテすぎ、ワルそうな雰囲気ムンムン。理想としていたクレヨンカラーのおしゃれさとは程遠い存在である。ちょいワルなおっさん風になること必至だろう(それもアリか?)。

それに、欧州でも黒づくめのクルマはその筋の人の印象がある、と以前ロンドンの知人から聞いたことがあるし、余談だが、実家なんぞにこれで乗りつけた日には「恥ずかしいからこんなクルマで来るな」とおふくろに言われること間違いなしだ。なんせ、「ユーノス ロードスター」(NA)にリアスポイラーをつけたときも黒いアウディ「RS6アバント」(C6)に乗っていたときも、まず「下品だ」という扱いを受けている。亡父の日記にも「息子のクルマには閉口。無駄金遣い」と記載されていたくらいである(笑)。

たぶん色や嗜好のことだけではないのだが、親の心子知らず、子の心親知らずとはいえ、トラウマですな。まあ、実家のことはさておき、せめてホイールはシルバーだったらいいのになぁと思う次第……。

もっとも、選択などできる身分ではない。あの大乗フェラーリ教で知られるジャーナリストの清水草一さんも「自分にあわせてフェラーリを買うのではなく、フェラーリに自分をあわせて買う」とどこかで書かれていたが、私にとってGT3はまさにフェラーリ同様と考えるに至っている。イチキュッパの値段には相変わらずビビるし、家人から非難を浴びること間違いなしだろうが、私にはもうこれしかない。買えるなら、こいつにしよう! と決めたのだった。

* * *

アラカンのおっさんがようやくたどり着いた羽根付き911は、求める理想とは異なるジェットブラックの2018年式クラブスポーツ仕様。決めたはいいが、どうやって買う? ほんとに手にすることができるのか?

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