残念ながらモークは軍に採用されるに至らず……
モーク(=バックボード)を軍用車として活用した場合の利点は、やはり小型軽量ということ。その特性を最大限活かすため、空挺部隊の兵士とともに輸送機からパレットに乗せたモークをパラシュートで降下させ、着地後に迅速な戦術機動を行うことを念頭に開発が進められた。そのパフォーマンスは実際に軍関係者の前で公開されたが、ここで大きな問題が発生する。
早くから舗装が整備された英国の道路。その良好な路面を前提に造られた10インチの小径タイヤを履いたミニ。このミニをベースに作られたモークは、戦場の不整地を走破するにはあまりにもロードクリアランスが不足しており、またその過酷な用途に対してはエンジンも非力だったのだ。
余談ではあるが、イギリス軍は第二次世界大戦中に「ウェルバイク」と呼ばれた折りたたみ式の超小型バイクを開発し、これをコンテナに詰めて空挺部隊の兵士とともにパラシュートで降下、実戦に投入しているが、こちらもモークのエピソードに似て大きな活躍はしていない。ともあれモークが軍に採用されるには至らず、パラシュートで戦地に降下されることはなかった。
ユニークな多目的車として若い世代を中心に流行した
イギリス軍には採用されなかったモークだったが、前述の通り1964年にはユニークな多目的車として一般市場向けに市販されることとなった。当時、若い世代を中心に世界的な流行となっていた「ビーチカー」の潮流にも乗り、こちらでは大きな成功を収めることとなる。
その後モークはイギリス本国のほか、オーストラリアやポルトガルなど海外の工場でも生産され、ベースとなったミニ同様、エンジン排気量の拡大やホイールの大径化、ハードトップの設定などの改良を加えつつ1993年まで作り続けられた。
2010年のデトロイトモーターショーに出展されたBMWミニの「MINIビーチコーマー・コンセプト」は、もちろんこのミニ モークへのオマージュである。また2017年からは「MOKE」の商標を所有するイギリスのMOKE International Limited社が、今後はEV化されたモークを生産していくという。かつても今も、ミニ モークはまぎれもなく「ビーチカー」のアイコンのひとつなのだ。
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以下蛇足。1960年代当時に発売されたイギリスはディンキートイズのミニカーは、ノーマルの市販モデルのほか、パレットとパラシュートが付属する軍用モデルや、人気TVドラマ『The Prisoner(邦題:プリズナーNo.6)』に登場する劇中車のカラーリングが施されたモデルなど、実車に即したバリエーション展開が行われていた。このことから、実車を見たことのない子どもたちでもモークの成り立ちがそこはかとなく理解できていたように思う。